格の違い その②
山を登れど
空には遠く
雲に登れど
天には遠い
翼を焼かれても
僕たちは何処へも行けない
2
水の弾丸が飛んできて、嬉々島の手の甲を穿つ。
「っ!」
嬉々島が攻撃が飛んできた方向に目を向けた。
そこには、手を構えたアクアが立っていた。
嬉々島はにいっと笑った。
「総司令官が手を出すか!」
「出すに決まってんでしょうが!」
アクアは半ばやけくそでそう叫ぶと、能力【水操作】を発動した。
彼女の手からゴボゴボと透明の水が湧き上がり、大砲程度の大きさとなり、勢いよく射出される。
「水砲撃ッ!」
「愚かな!」
嬉々島は、迫る水の攻撃に向かって手刀を振り切った。
「【幽鬼羅刹寒風の断り】ッ!」
彼の手から風で構成された斬撃が放たれ、水の塊を消し飛ばす。
さらに嬉々島は、脚に風を纏わせて加速すると、アクアとの間を詰めた。
アクアは咄嗟にバックステップを踏む。
しかし、それよりも先に彼がアクアを捉え、アスファルトの上に組み伏せた。
「くうっ!」
アクアの首を締めながら嬉々島は言った。
「なるほど! 部下を守ることは総司令官の仕事だ! だが! スフィンクス・グリドール様の命で貴方達を捕らえに来ている私の目の前で! その行動は賢明な選択ではないですよ! 総司令官!」
キリキリとアクアの首が締まっていく。
アクアは声を出すことができず、ただ顔を青くするだけだった。
それを見た架陰は、血まみれの身体に鞭を打って立ち上がった。
「あ、アクア…、さん…」
刀を握りなおす。
傍を見れば、ココロもふらつきながら立ち上がっていた。
「てめえ…、アクアを放せや…」
ココロが口を悪くして嬉々島を睨んだ。
嬉々島はアクアの首を締めたまま続けた。
「放してほしかったら、おとなしく降伏してください。アクア様の命は助けて上げましょう」
「……」
架陰の脳裏に二つの選択が現れた。
嬉々島の提案を呑むか、呑まないか。
だけど…、降伏することでアクアの命が助かるなら…。
そう思い、頷きかけた時だった。
アクアが濁った目を二人に向け、口パクで「ダメよ」と言った。
スフィンクス・グリドールは「マッドサイエンティスト」だ。
もし、彼のもとに連行されようものなら、「死」よりも残酷で恐ろしいことが待っている。
それが目に見えたのだ。
「でも…」
架陰が狼狽える。
すると、ココロが「なにやってんだよ、センパイ」と、斬り込むように言った。
「男だろうが…、覚悟、決めろよ」
「ココロ…」
ココロが刀を握りなおし、中段に構えた。
彼女の握る【名刀・秋穂】が黄金色に輝く。
「刀を握っているんだろうが…、だったら、刃に命賭けなよ。誓えよ…、『守り切る』って」
「…ッ!」
ココロは嬉々島を見据えたまま言った。
「『アクアは護る』…『嬉々島も撃退する』。二つに一つじゃない。二つともやるんだよ…、男なら…、刀を握るやつなら、それくらい覚悟決めろ」
「……わかった」
ココロに諭された架陰は、汗を拭い、頷いた。
そして、ココロに合わせて、自らも刀を構える。
「アクアさんを…、助けよう…」
刃を向けてきた二人に対し、嬉々島は冷静だった。
アクアの首を締めながら笑う。
「向かってきますか…、それでもいいでしょう…。いずれにせよ…、私も二つを遂行するまでですから」
嬉々島の反射神経は異常に高い。
おそらく、下手な攻撃を仕掛ければ、すぐにアクアを盾に使うだろう。
ならば、彼が反応できないくらい速く斬り込めばいい。
「これしかないか…」
架陰はゆっくりと息を吸い込むと、【名刀・夜桜】の切っ先に意識を集中した。
ピリピリと、刃の先に、黒い閃光が駆け巡る。
(魔影を…、一点に集中させる…!)
攻撃ではなく、素早さに振り切って…。
その瞬間、アクアが動いた。
手の中に出力した水の塊を、嬉々島の脇腹に押し付けたのだ。
ボンッ!
と、水が炸裂し、嬉々島がよろめく。
一瞬、一瞬だった。
その一瞬の隙を突いて、架陰は刀を虚空に向かって突いた。
「【悪魔大翼・閃天】ッ!」
黒い斬撃が、まるで槍のような形となり、空間を貫きながら放たれる。
そして、無防備になっていた嬉々島の脇腹を抉った。
その③に続く




