【第155話】 嬉々島VS架陰&ココロ その①
竜巻は
朝露の眠る間に
台風は
朝霧の引く間に
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「ボクは物覚えが悪くてね! 多分、覚える前にお前を斬り殺してる!」
ココロはそう言うと、空中で上体を捻り、遠心力が乗っかた斬撃を、嬉々島にお見舞いした。
ガツンッ! と鈍い金属音が響き渡り、嬉々島が三歩後ずさる。
嬉々島は頬を流れ落ちる血液をぺろっと舐め、そして笑った。
「へえ、四天王の部下である私に逆らいますか…」
「逆らうも何も! ボクはそういうの知らねえんだよ!」
ココロは嬉々島の言葉を吹き飛ばし、刀を握り締めて強襲する。
嬉々島はアスファルトを蹴りだすと、ガードレールにぶつかって停まっているワゴン車の上に飛び移った。
高い場所から、ココロ、アクア、そして架陰を見下ろす。
「アクア殿」
「……」
嬉々島に名前を呼ばれて、アクアは身構えた。
嬉々島は続ける。
「どうなさいますか? こちらも、あまり武力行使には移りたくない。ここで、総司令官の貴女が、『賢い選択』に出てくださると助かるのですが…」
「賢い選択ってのは…、あれかしら? 私たちをスフィンクス・グリドールのところに連れていくってこと?」
「その通りでございます」
「連れていかれた私たちは、どうなるの?」
わかっていたが、確認のために聞く。
嬉々島は深々と頷いた。
「悪魔と接触した者ですからね…、もちろん、スフィンクス・グリドール様の研究の対象となります」
「つまり、人体実験ってことね…」
「多少の苦痛は伴いますが…、死にはしませんよ? 実際、私が、その実験の被験者ですから…」
見れば、嬉々島の外れた右手首の断面から、刀の刃が飛び出ていた。あまり考えたくはないが、あれは、スフィンクス・グリドールの非人道的な人体実験の賜物だろう。
「さあ、どうなさいますか?」
「どうするかって言われたって…」
アクアは頬を伝う汗を拭う。
架陰とココロが、縋るような目をアクアに向ける。
アクアはため息混じりに言った。
「急に襲撃されて、『貴女は今から実験体です』って言われて、『はいそうですか』て頷けるわけないでしょう?」
「おや…」
嬉々島の目が細まる。
「だから、ここは一応、『防衛手段』を取らせてもらうわ」
次の瞬間、アクアは、架陰とココロに指示を出した。
「架陰ッ! ココロッ! 今から、二人に任務を出すわ! 目の前に立ち塞がったこの男を、全力で叩きつぶしなさい!」
その言葉に、架陰とココロは同時に頷いた。
「「了解ッ!」」
嬉々島は「あーあ」と、わざとらしく残念がった。
「こりゃあ、大変ですねえ。四天王のご命令を受けた、この嬉々島の要求を拒むということは、それすなわち…、四天王の命令に背くことですよお?」
どこか楽し気に言った嬉々島は、右手首から生えた銀色の刃を、ココロ、架陰の順に向けた。
そして、殺意の籠った笑みを浮かべた。
「では、こちらも、UМAハンターらしく…、武力行使で、愚かな悪魔を退治するとしますか…」
「てめえ! ボクは悪魔じゃねえっ!」
ココロが、嬉々島に飛び掛かる。
嬉々島は「おっと」と言うと、体重を後ろにかけて、車の屋根からふっと姿を消した。
咄嗟に、ココロは踏みとどまる。
そして、愕然とした顔で、車の向こうを見た。
「こいつ…、崖に…!」
アクアが運転していたワゴン車は、ガードレールにぶつかって停まっていた。そのガードレールの向こう側は、断崖絶壁だったのだ。
まさか、飛び降り?
ココロは足袋でアスファルトを踏みしめて飛ぶと、ワゴン車の上に乗った。
そこから身を乗り出し、ガードレールの向こう側の崖を見下ろす。
その瞬間、真下から白い竜巻が飛んできて、ココロの前髪を掠めた。
「ッ!」
竜巻。と言うよりも、肌を這う殺気に恐れをなしたココロは、咄嗟に上体をのけ反らせる。
殺気が、上から迫ってくる。
「くそっ!」
反射的に、刀を頭上で構える。
ギンッ! と、手の中に重い衝撃が走った。
ココロは雄たけびを上げると、半歩下がって衝撃を逃がし、素早く返した手首で、頭上から降ってきた攻撃にカウンターを加える。
「おっと!」
嬉々島が白衣の裾を翻し、アスファルトの上を転がった。
「すごいですね、初見であの攻撃を見切りましたか…!」
見切った。と言うよりも、彼女の防衛本能がそうさせたのだ。
ココロはあの一瞬で前身に冷や汗をかきながら、嬉々島の方を見た。
「こいつ…、なんの能力者だよ…!」
その②に続く




