一代目鉄火斎動く その③
血を舐め四歩火の海死角
明日の酔いどれ楠木檜
3
「【名刀・秋穂】を奪うことが成功したとして、何に使うんだよ」
ココロは眉間に皺を寄せてそう言った。
それには、架陰が冷静な思考を巡らせた。
「『奪う』って言ったって…、ココロ、その刀はそもそも、キミの祖母の死体に突き立っていたものだろう?」
「ん? そうだけど…」
「ココロは、それを抜いて、自分のものとして使っているわけだから…、奪ったのはココロで、一代目鉄火斎は単に奪い返そうとしているんじゃないか?」
「あ、そうか…」
ココロははっとして、腰の刀に手を触れた。
「ま、まあ、確かに、奪ったと言えるのかな?」
しかし、すぐに反論する。
「でも…、あの場所には、ボク以外誰もいなかったんだぞ? もし、この刀が大切なものだとしたら、すぐに持ち帰っていると思うんだが…」
「むむむ、確かに…」
その矛盾に、架陰も何もいうことができない。
二人で頭を捻っていると、その肩をアクアがぽんと叩いた。
「とにかく、無事で良かったわ。そのことは、本部に帰ってからじっくりと考えていきましょう」
「…、わかりました」
架陰はこくんと頷いた。
※
それから、架陰とココロは小屋の裏を流れている滝で汗を流し、アクアが用意した代えの着物に着替えた。
二代目鉄火斎が作ってくれた山菜鍋を食べて腹を膨らませ、そして、帰ることになった。
「じゃあ、鉄火斎、私たちはこれで帰るから」
「おう、何かわかったら連絡しな。オレも、師匠のことは暇暇で調べてみる」
「うん、よろしくね」
そう言うと、アクア、ココロ、架陰は踵を返し、ワゴン車が停めてある方へと歩き始めた。
二代目鉄火斎が思い出したように言った。
「そうだ、架陰!」
「ん?」
架陰が振り返る。
「どうしたんですか?」
「おい、あの刀の調子はどうだ?」
あの刀。とは、つまり【名刀・夜桜】のことだった。
「それがですね…」
架陰は刀を抜いた。
柄と鍔だけの、刀身の無い刀が姿を見せる。
「まだ、使いこなせているとは言えません」」
「そうか…」
鉄火斎は静かに頷いた。予想していたことだった。
【名刀・夜桜】は、二代目鉄火斎が架陰のためだけに打った刀。その性能は、彼の能力【魔影】を発動したときのみ発揮される。
刃の根元に、高密度の魔影石が練り込まれており、それが架陰の能力魔影に反応し、それを収束させ、超高密度の黒い刃を構成させるのだ。
魔影を使うことができる、架陰専用の刀。
「刃の形を維持するのに集中力がいります。鬼丸と戦った時は、『こいつに勝ちたい!』という意志が強かったから、この刀の本領を発揮することができたと思うんですけど…、さっきの、笹倉との戦いでは、うまく力を使いこなせませんでした」
「具体的に、どう使えなかったんだ?」
「鬼丸との戦いほどの出力が出せなかったんです」
「……そうか」
特に、鬼丸を倒した時に放った【悪魔大翼・獣陰】を放った時、斬撃は笹倉に届く前に飛散してしまった。
二代目鉄火斎は渋い顔をしながら言った。
「残念だが、それは多分、刀のせいじゃなくて、お前の技量のせいだな」
「…わかってます」
「魔影で構築された刃は、確かに強力だ。常に、【悪魔大翼】を柄の先に持っているのと同じだからな。その分、それを留めておくだけの【集中力】が足りていないんだろうよ」
「そうですね」
「魔影の操り方は、オレにはわからん。お前が、戦いの中で身に着けていくしかないよ」
「…精進します」
架陰は静かに頷くと、刀身の無い刀を鞘に納めた。
「では、また今度」
「ああ、また来いよ」
架陰と鉄火斎は、手を振り合って別れた。
※
細い道を走っていくと、先に行っていたアクアとココロに追いついた。
「あ、架陰、おかえり。二代目鉄火斎と何の話をしたの?」
「僕の刀の話です」
架陰はへらっと笑った。
「もっと、使いこなせるようにならないとなって」
「そう…」
アクアは優しく微笑むと、架陰、そして、ココロの頭を撫でた。
「二人とも、頑張らないとね」
第154話に続く




