決戦! 笹倉!! その③
未来を変えることが『運命に抗う』ことではない
運命を受け入れることが『抵抗』なのだ
3
「雷竜閃!」
「悪魔大翼・獣陰ッ!」
空中の笹倉。
地上の架陰。
二人は同時に刀を振り切り、それぞれ、雷撃と魔影の斬撃を放った。
ドンッ!
と、二つの斬撃が衝突し、鼓膜を割らんばかりの衝撃波を発生させる。
「くっ!」
架陰は歯を食いしばった。
ぐらっと足元の地面が崩れ、膝をつく。
飛び散った木の葉や土が、彼の身体に容赦なく降りかかった。
「くそ、失敗した!」
架陰の放った、【悪魔大翼・獣陰】は、彼の持てる全ての魔影を刃に纏わせて放つ、いわば「最終奥義」。この力で、鬼丸との激戦を制した。
「全ての力が乗り切らなかったっ!」
最終奥義発動には、相当の胆力がいる。
そのためか、咄嗟の発動では、技が未完成だったのだ。
バチンッ!
と、雷撃が走るような音がしたと思うと、二つの高エネルギーが相殺される。
辺りに焦げっぽい臭いが漂った。
「くそ…」
笹倉は「あれ?」と、意外そうな顔をした。
「オレの雷撃で、相殺できた…? なんだよ、拍子抜けじゃねえか。お前、あの技で鬼丸さんを倒したんじゃねえのか?」
「………」
架陰は何も答えない。ただ、名刀夜桜を握り締めたまま、上空の笹倉を見つめていた。
笹倉は心の中でにやっと笑った。
(やっぱりな…)
笹倉の目から見ての、先ほどの技が失敗だったことはわかった。
鬼丸との戦いで発動した、【魔影・伍式】。そして、勝利に繋がった【悪魔大翼・獣陰】。
あれはおそらく、命の危機に瀕した時、防衛本能が働いて、奇跡的に完成させた代物。
そう簡単に発動することができないというわけだ。
(なるほどなあ、だったら、オレにも勝機があるってことか)
笹倉は再び刀を強く握り、刃表面に雷撃を走らせた。
「じゃあ、もう一発行くか…」
そうやって、刀を振り上げた瞬間…。
目の前に、ココロが現れた。
「っ!」
突然の乱入に、笹倉の腕の動きが鈍る。
ココロは、笹倉が架陰に意識を奪われている隙に、死角から空中の彼に斬り込んだのだ。
「ぶっ殺す!」
殺気だった目でそう言ったココロは、手首の返しを利用した高速の一撃を笹倉に叩きこむ。
ギンッ!
甲高い金属音。
何とか刀で防いだものの、勢いを殺すことができず、笹倉は地面に打ち落とされた。
すぐさま、地面に手をついて体勢を整える。
「へへへっ! やるねえ!」
見上げれば、空中で身を捩りながら、ココロがこちらに向かって斬りかかってくる。
これは好都合。
笹倉はにやっと笑った。
(飛んで火にいる夏の虫…、さっさと秋穂を回収させてもらうぜ…!)
刀を左手に持ち帰ると、斬り込んできたココロを迎え撃つ。
ギンッ!
と、再び耳を劈くような金属音と共に、ココロの刃と笹倉の刃が合わさった。
鍔迫り合いをしながら笹倉が言った。
「へへへ! 流石だな! 負けちまいそうだ!」
「何を馬鹿なことを!」
ココロは鬼気迫る表情でそう言うと、次の瞬間、刀を振り切って笹倉を弾き飛ばした。
背後の木に衝突する前に、笹倉は背中の翼を仰ぎ、空中で身体を固定する。
「おっと、あぶねえあぶねえ」
「てめえ! 何のつもりだ!」
ココロが苛立ちの籠った声で言う。
「さっきから、薄っぺらい殺気振りかざしやがって!」
ココロの言葉に、へらっと笑っていた笹倉の目がすっと細くなった。
やはり気づかれたか。
ココロは額に青筋を浮かべ、握っていた刀の切っ先を笹倉に向けた。
「てめえの攻撃に宿る【殺気】が、スカスカなんだよ! てめえ、本当にボクたちを殺すつもりなのかよ!」
第152話に続く




