【第151話】 決戦! 笹倉!! その①
ガーゴイルは東の空を見て慟哭する
自分にも朝が欲しかったのだと
おはようと言い合える友が欲しかったのだと
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「ココロ! あいつの雷撃は変幻自在だ! フィールドをうまく利用して立ち回るんだ!」
「わかってるって!」
ココロは頬の泥を拭って頷いた。
辺りには、雷撃が命中し、焦げた土の臭いが漂っていた。
その香ばしい香りを吸い込みながら、架陰は考えにふけった。
(どうして、ここに悪魔の堕彗児が…?)
確かに、彼らには「体内に悪魔を宿す架陰を攫う」という目的がある。
その目的を達成するために、今までに何度も彼を襲撃してきた。
だが、その度に、多くの悪魔の堕彗児を連れ、練りに練った計画を携えてくるのだ。
それなのに、今回は単身で乗り込んできたのか?
いや、笹倉一人に見せかけて、実は他にも仲間が潜んでいるのかもしれない。
(くそ…、わからない)
笹倉の真意がわからなかった。
「わからねえって面しているな」
木の枝の上に隠れている二人の前に、笹倉が現れた。
背中から生えたガーゴイルの翼を羽ばたかせ、赤く染まった目で二人を見据える。
「安心しな。今回はオレ一人だ」
「どうして? いつもなら大勢で襲撃してくるじゃないか」
「まあ、そうだけど…、生憎、オレたちの戦力は現在がた落ちなんだよ。鬼丸さんも、唐草も、神谷も蜻蛉もみんなやられちまって、今は回復に専念しているって感じだな」
「だったら、お前も休んでいれば良かったんじゃないか?」
「そう言うわけにはいかないんだよな」
笹倉はにやっと笑うと、架陰の隣のココロを見た。
(特に…、名刀秋穂の継承者が出現した以上、動かないわけにはいかないんだよな…)
目的は「架陰」ではなく、「ココロ」。
それを悟られまいとすると、笹倉は刀の切っ先を二人に向けた。
「さあ、続きと行こうぜ」
「望むところよッ!」
ココロが枝を蹴って、空中の笹倉に斬りかかった。
獲物自ら向かってくるとは好都合。
「ほら、遊ぼうぜ」
笹倉はにやっと笑うと、振り下ろされた刃を、自身の刀で受け止めた。
ギンッ!
と、劈くような金属音が響き渡る。
ココロはぐっと体重を掛けて、秋穂の黄金色の刃をさらに押し込んだ。
ギリギリ、ギリギリと刃と刃が擦れ合う。
秋穂の刃紋を見て、笹倉はわざとらしく言った。
「おお、お前の刀も【鉄火斎】作なのか、奇遇だな、オレの雷光丸も、鉄火斎さんに作ってもらったんだよ」
「何だと…!」
「同じ刀を持つもの同士…、仲良くやろうや」
そう言うと、笹倉は身を反転させて、ココロを投げ飛ばした。
「くっ!」
硬い地面に墜落するココロ。
何とか受け身をとって立ち上がる。
「ボクとお前の刀が…、同じ製作者だと…?」
「ああ? お前、架陰に聞かなかったのか? お前の刀を打った張本人は、今は【悪魔の堕彗児】に所属して、オレたちの武器を作っているって」
「知っていたさ…」
わかっていたが、まさかこんなにも早く、その「鉄火斎製作」の刀を持つものにめぐり合うとは思っていなかったのだ。
「話が見えないけど…」
バキッ! と指の関節を鳴らすココロ。
「とりあえず、ぶん殴って、鉄火斎の様子を聞かせてもらうぞ!」
そう叫ぶと、地面が砕けんばかりの脚力で踏み込み、空中の笹倉に斬り込んだ。
(こちとら、お前の刀だけを回収しろって任務をいただいているんだわ)
笹倉は心の中でそう思うと、握っていた雷光丸をヒュンッ! と振った。
刃から雷撃が放たれる。
「あぶねッ!」
ココロは咄嗟に身を捩って躱した。
再び着地。
「くそ…、近づけない…!」
「空中ではオレの方が有利だぜ?」
笹倉はにやっと嘲笑った。
背後から殺気。
咄嗟に頭を伏せる。
ヒュンッ!
と空を斬る音がし、架陰の放った斬撃が頭上を掠めた。
「よく躱したね!」
「そりゃあ、何回もお前と戦っているからな」
その②に続く




