襲撃 その③
さらばと手を振る雉の群れ
降りしきる羽根に彩り添えて
彼女は歳末の光雲を愛でている
3
「行くぜ、覚悟しな」
にやっと、八重歯を見せて笑った笹倉が、刀の切っ先を二人に向けた。
架陰は腰の刀に手をやって、腰をぐっと落とす。
立ち塞がる笹倉に注意を払ったまま、ココロに指示を出した。
「ココロ、こいつが、前に言っていた【悪魔の堕彗児】だよ」
「へえ、こいつが…」
警戒して口調が強くなる架陰に対して、ココロの声は楽しそうに聞こえた。
ココロは下唇を舐めて湿らせた。
カチンッ! と、腰の刀を数センチ抜く。
「UМAと人間の姿を併せ持つ怪物か…、なかなか面白いじゃないか! 狩りがいがあるよな!」
「まて、ココロ…」
今にも笹倉に飛び掛かりそうなココロを制した。
多分、言っても聞かないとは思いながら忠告する。
「笹倉は強いよ。油断するな」
「わかってら。あいつの立ち振る舞い見てたらわかるっつーの」
「特に、あの刀…」
名刀【雷光丸】。
「あれは雷撃を放つことができる武器だよ。だから、近接だけでは対応できないと思う…、僕が指示を出すから…、うまく立ち回って欲しい」
「立ち回るだ?」
ココロは馬鹿にしたように首を捻った。
「そんなちんけな事できるかよ! 要は、当たらなければいいんだろ?」
案の定、架陰の言葉を無視したココロが、地面を蹴って飛び出す。
「ココロッ!」
「すぐに仕留めてやるよ!」
ココロの先制攻撃に、笹倉は身動き一つとらない。
ふっと、口元がにやりと笑った。
「っ!」
その笑みに、何かを感じ取ったココロ。
次の瞬間、「あぶねッ!」という悲鳴をあげて、その場から飛びのいた。
バチンッ!」
と、笹倉の立っていた地面より、半径五メートルの範囲から、黄金の雷撃がせり上がる。
すんでのところで躱したココロは、そのまま地面を転がった。
「くっ!」
「おっと、気づかれちゃったか…、お前、結構勘がいいなあ…」
想定内。とでも言うように、余裕そうな笑みを浮かべる笹倉。
「すごいだろ? 【雷雷地雷】だ。あらかじめ、刀から出る雷撃を地面に忍ばせておけば、オレの射程距離に入った人間、みんな感電するぜ?」
「だったら! 遠くから攻撃すればいいってわけだ!」
すかさず、架陰がココロの横から飛び出し、魔影を纏わせた刀を一閃した。
「【悪魔大翼】ッッ!」
黒い斬撃が、笹倉に迫る。
「お前も飽きないねえ…」
笹倉はニヤリと笑うと、翼を羽ばたかせて上空へと回避した。
空を切る黒い斬撃。
「あ! また空に逃げる!」
「馬鹿言えよ、『回避』したんだ。お前の斬撃を喰らったらひとたまりもないもんな」
これで三度目の交戦。
お互いに、手の内は理解していた。
笹倉は【名刀・雷光丸】の切っ先を天に向けると、雷撃を放出させた。
「雷雨」
四方八方に飛散した雷撃が、まるで雨のように地上の二人に降り注ぐ。
バチン! バチンッ! バチバチンッ!
と、当たった場所で黄金の輝きを放って弾けた。
「くそっ!」
架陰は咄嗟に、ココロの腕を掴んで抱えると、地面を蹴った。
脚に魔影を纏わせて、それにより上昇した脚力でさらに加速する。
大きく回避して、降り注ぐ雷撃の雨を躱した架陰は、木の枝に飛び移り、そこでココロを下ろした。
「ココロ! あいつの雷撃は変幻自在だ! フィールドをうまく利用して立ち回るんだ!」
「わかってるって!」
ココロは頬の泥を拭って頷いた。
第151話に続く




