襲撃 その②
蛇が出るか
獅子が出るか
毒で死ぬか
食われて死ぬか
2
「まあ、でも、変な神様を信仰していたのは確かだな」
「変な神様?」
「ああ…、ボクの村には…」
そう言って、ココロが自分の暮らしていた村について語ろうとした、その時だった。
突如、上空に黄金の光が走った。
バチバチッ! という音と共に、身の毛がよだつ殺気を感じ取った架陰はすぐに動く。
「ココロ! 下がってッ!」
ココロの首根っこを掴むと、一気にその場から離れた。
バチンッ!
と、天空から落ちてきた雷撃が、二人が立っていた地面に命中し、草木を黒く焦がす。
辺りに風船が破裂するような音がこだましたと思えば、一瞬で鼻を突く異様な香りに包まれた。
「な、なんだよ…」
突然の襲撃に、ココロは驚きを隠せない。
架陰は冷静に状況を把握した。
(この雷撃は…!)
見覚えがあった。
顔をあげて見ると、空の高い場所に人影が見えた。
「あそこかッ!」
すぐさま刀を抜いて、上空に浮かぶ者に向かって一閃する。
「【悪魔大翼】ッッ!」
振り切った刃から、魔影で構成された黒い斬撃が発射され、空中の人影に迫った。
人影は「おおっ!」と素っ頓狂な声を洩らしながら斬撃を回避する。
そして、二人がいる場所に降り立った。
「よお、久しぶりだな。架陰」
「お前は…!」
猫のように吊り上がった目。挑戦的にニヤリと笑う口元。髪は赤茶でぼさぼさとしている。黒いマントを身に纏い、下半身が存在しない。代わりとでも言うように、背中からは蝙蝠のような翼が生えて、それで空中を浮遊していた。
「悪魔の堕彗児の、【笹倉】ッ!」
「よっす、名前、覚えてくれたな」
笹倉は久しぶりに会った友人を相手している蚊のように、気さくに手を振った。
ココロが警戒した声で架陰に聞いた。
「おい、先輩、あいつ何者だよ」
「前にも言っただろ? あれが【悪魔の堕彗児】だよ」
悪魔の堕彗児。
それは、十年前に悪魔が世界中に蔓延させた『DVLウイルス』の力を利用して、自身の身体を『UМA』に変えてしまった、元人間のことを言う。
彼らは、人間の姿と、UМAの姿を両立しており、度々、悪魔本体の力を宿す架陰を襲撃してくるのだ。
「どうした? 今日は何の用?」
架陰は挑発的に言うと、刀の切っ先を笹倉に向けた。
ガーゴイルの姿に変身している笹倉は、「わかるだろ?」と肩を竦めた。
「お前を連れ去りに来たんだよ」
「一人で?」
「仲間と…、と言いたいところだけど…、マジで今回は一人だぜ」
笹倉はは背中の翼を羽ばたかせながら、深いため息をついた。
「前に、お前らUМAハンターと全面戦争しただろ? あれのおかげで、オレたちの主力がみんな戦闘不能にされちまってよ。今は人員不足ってわけ!」
「そうだね。鬼丸は僕が倒したからね」
「そうだよ。よくもオレらの憧れの鬼丸さんをやってくれたよな」
笹倉は恨みがましく言いながら、腰のベルトに挟まれた刀に手を掛けた。
それから、架陰の背中に隠れるようにして立っているココロを一瞥する。
ぺろりと、下唇を湿らせた。
「へえ…、やっぱりそうか…」
「や、やっぱり?」
「ああ、気にするな。オレの独り言だからさ」
そう言って、腰の刀を抜く。
「名刀…【雷光丸】ッ!」
金色の刀身が姿を現し、外気に触れた途端、バチバチッ! と雷撃を纏った。
「さて、戦おうぜ。架陰」
「言われなくとも! また返り討ちにしてやる!」
刀を構える架陰。
彼が殺気を放っているのに対し、笹倉は冷静に辺りの状況を推察した。
(なるほどね…。やはり、あの女…、鉄火斎殿の刀を握っていたか…)
今回の笹倉の目的は、「架陰を連れ去る」ことではない。彼の隣にいる、ココロの「刀の奪還」だった。
「行くぜ、覚悟しな」
笹倉はそう言うと、悪魔のようにニヤリと笑い、二人に刀を突きつけた。
その③に続く




