【第150話】 襲撃 その①
天を駆けるは四十閃
死之宮弧之宮容赦せぬ
明日の夜明けを知らぬまま
僕らは蝙蝠蜥蜴を眺めてる
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ここに来て、新たな疑問点が浮かび上がった。
一つはココロが装備している【名刀・秋穂】がただの刀ではないということ。
彼女の刃が、リザードマンの死体に突き立った瞬間、リザードマンの体内に蓄積されていた【DVLウイルス】を吸収したのだ。
「ねえ、ココロ」
「なんだよ?」
「その刀、もう少し見せてくれないか?」」
「ああ?」
ココロは眉間にしわを寄せたものの、素直に刀を架陰に預けた。
「ありがとう」
刀を受け取る架陰。
次の瞬間、手の中にビリッ! と刺激が走った。
「うっ!」
反射的に手を離す。
彼の手から離れた刀は、地面に落ちる…直前でココロが受け止めた。
「おい! 何やってんだよ!」
「あ、ああ、ごめん…」
見ると、架陰の手のひらが、熱したコンクリートに触れたみたいに赤くなっていた。
「こ、これは…」
困惑していると、悪魔が耳元で囁いた。
(気ヅイタカ?)
気づいた? 一体、何に?
悪魔はさらに続けた。
(貴様ガ柄ニ触レタ瞬間…、刀ガ結界ヲ発動シテ、貴様ヲ阻ンダ…)
「結界…?」
目元がピリピリとする。
震える眼球でココロの刀を見ると、刃表面を、黒い閃光が走っていることに気が付いた。
「おい、ココロ…、それ…」
「あん?」
ココロが刃を見る。
そして、なんてこと無いように頷いた。
「ああ、これな。時々なるんだよ」
「時々…」
ざわざわと、身体中をムカデが這いまわるかのような不気味な感触。
彼が「真実」に辿り着く前に、精神の中に住み着く悪魔がこう言った。
(オソラク…、ソノ刀…、生キテイルゾ…)
生きた刀。
その話自体は驚く内容ではない。鈴白響也の【愛刃・death scythe】だって、素材は機械生命体を使っているので、実質「生きている」と言える。
驚くべきは、そのような代物を、どうしてココロが持っているのかということだった。
悪魔は粘っこい声で言った。
(DVLウイルスヲ喰ラウトイウコトハ…、ツマリ、ソノ刀ニ宿ッテイルノハ【悪魔】ダ)
「あ、悪魔か…」
これもまた、驚くことではない。
架陰のように、悪魔に取り憑かれている人間は数多いる。彼が今まで出会って来た中では、【城之内カレン】や、四天王の一人である【スフィンクス・グリドール】であったり。
「だけど…」
(アア、ソウダナ…)
二人はある「矛盾」に気が付いて同時に頷いた。
最初に、ココロと刀を交えた時のこと。
ココロの怒涛の四連撃を喰らった架陰は、しばらく【魔影】の能力を発動することができなくなった。
つまり、ココロの攻撃は、『悪魔の力を封じる』効果を持っていたということだ。
(悪魔が、悪魔の力を封じる…? 同種の生物なのに…、敵対するのか? それとも…、ココロを主人としてみとめているからそんなことをした?)
ぼーっと考え込んでいると、ココロが架陰を呼んだ。
「おい、先輩! 何やってんだよ! 早く次のUМA狩りに行こうぜ!」
「え、あ、うん…」
現実に引き戻された架陰は、疑問を振り払って、先に進んだココロの背中を追いかけた。
「どうしたんだよ。急に考え込んで」
「あ、ごめん。ココロの刀のことを考えていたんだ」
「秋穂のことか?」
「ねえ、ココロ。キミが住んでいた村に、その…、何か…、【悪魔】にまつわることは伝えられていなかったか?」
「悪魔だあ?」
ココロの眉間にしわが寄る。この様子は、完全に「何も知らない」って感じだった。
「悪魔ってなんだよ」
「あ、そうだよな。ごめん」
シュンと黙り込む。
しかし、ココロは少し考えた後に、こんなことを言った。
「まあでも…、変な神様を信仰していたのは確かだな」
その②に続く




