初めての共闘 その③
絶海に身を投げる
有象無象の鯨たち
3
「はい、いっちょ上がり」
地面に転がったリザードマンの生首が動かないことを確認してから、架陰は刀を鞘に納めた。
「まずは一匹だね」
そう言って振り返る。
ココロが不満げな顔をして立っていた。
「どうしたの?」
「いや、ボクが止めを刺したかった」
「あのねえ」
この期に及んで、「自分が先だ」「自分が狩る」と言って聞かないココロに、架陰はため息をついた。
「いいか? ココロ」
「よくない」
「まだ何も言っていない」
ココロの口を塞いでから、架陰は先ほどのココロの単独行動を指摘した。
「ココロ、ダメじゃないか。さっきみたいに、自分勝手に動いたら」
「いや、オレの方が速いし…、強いし…」
「あのねえ…」
ココロは唇を尖らせてそっぽを向いていた。
架陰は構わず言う。
「ココロがワンマンプレイをしたいのはわかったよ。確かに、キミなら前線を張ることができるよ。僕も援護しよう。だけど…、もう少しさ、もう少しだけ、僕たちのことに気を配ってよ」
「気を配るねえ…」
ココロは唇を尖らせたまま、ため息をついた。
「要するに協力だろ?」
「うん、協力」
「したことが無いんだよ…、だって、ずっと一人だったから」
「………」
ああ、そうか。
と、架陰は合点した。
ココロは、数年前に住んでいた村の住人を皆殺しにされて、天蓋孤独になってから、ずっと、名刀秋穂の謎に迫るために旅を続けてきたのだ。
時には強奪し、獣のように生きてきたのだ。
そんな彼女に、「協調性」なんてものがあるはずがなかった。
「わかったよ」
架陰はこくっと頷いた。
「じゃあ、協力はもう少しゆっくりと覚えていこう」
「あ、そうだ」
ココロは思い出したように手を叩いた。
「これを忘れていたよ」
そう言って、握っていた刀を、リザードマンの死体に突き刺す。
ずぶっと、リザードマンの硬い体表に刃が突き立った瞬間、傷口からうっすらと黒い霧のようなものが染みだした。
「え…?」
黒い霧のようなものは、そのまま、稲穂色の刃表面に吸い込まれて消えた。
「ねえ、ココロ…、それは?」
「ボクにもわからない」
ココロは刀を抜いて言った。
「この【名刀・秋穂】は変な刀でね。殺した相手から、変なものを吸い上げるんだ」
「変なものって…」
先ほど、リザードマンの体表から染みだし、秋穂の刃に吸い込まれていった物質。
それに、彼は見覚えがあった。
次の瞬間、架陰の脳内に悪魔の声が響いた。
※
(架陰…)
「え…、悪魔?」
二人は精神の中で会話をした。
「悪魔、もう動けるの?」
(動ケルニ決マッテイルダロウガ…)
「まあ、そうか…」
先ほど、リザードマンと戦った際に、架陰は【魔影】の能力を発動していた。つまり、ココロとの戦いで行動不能に陥っていた悪魔が力を取り戻したということだ。
「それで…、どうしたの? キミが精神に語り掛けてくるってことは…、また何かあったの?」
(アア…)
悪魔が頷く。
(架陰、アレヲ見タカ?)
「あれって、あの黒い霧のこと?」
(ソウダ。アノ黒イ霧…、サシズメ…)
「魔影だね」
架陰は悪魔がいう前に言った。
リザードマンの体内から出てきた、あの黒い霧。薄くはあるが、あれは悪魔の力の一つである魔影だった。
おかしな話ではない。
架陰の精神に取り憑いている悪魔は、十年前に、世界中に【DVLウイルス】を蔓延させて、UМAを大量発生させた元凶。
基本的に、全てのUМAの中には、悪魔と同じDNAを持った細胞が含まれているのだ。
「この、【名刀・夜桜】に使われているのも、君の細胞の一部だよね」
架陰はそう言いながら、考えにふける。
「じゃあ、どうして、ココロの秋穂は…、悪魔の力を吸い込んだんだ?」
第150話に続く




