【第149話】 初めての共闘 その①
金剛石を片手に
進む修羅の道の先に
真珠のお導きを求め
僕は楡の断崖を愛でている
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「くうっ!」
リザードマンに吹き飛ばされたココロは、先にあった木の幹に背中を打ち付けた。
肺に衝撃が走り、息が詰まったが、すぐに立て直して着地する。
「へえ! なかなか強いじゃないか!」
「ココロ! 落ち着いて!」
架陰がココロの傍らに立ってそう指示した。
「二人で協力して倒すんだ!」
「馬鹿かよ! ボクが先に倒してやるんだよ!」
ココロは架陰の指令を無視して、再び刀を握ってリザードマンに斬りかかった。
リザードマンは、爬虫類質の体表をぶるっと震わせると、迫るココロを、その黄金の瞳で一瞥した。
刀を携えた彼女が「敵」であると判断するのに、一秒とかからない。
「キシャアッツ!」と一鳴きすると、ナイフのように鋭い爪でココロに襲い掛かった。
ヒュンッ!
と、リザードマンの爪が空を切る。
ココロは跳躍して上空に逃れると、身を捩り、リザードマンの頭上に回り込んだ。
「これでおしまいよ!」
刀の切っ先をリザードマンの脳天に向ける。
そして、上空から強力な一突き。
しかし、リザードマンはすぐさま後方に跳んでその一撃を躱した。
ココロの放った刀は、虚しく空を切り、地面に突き立つ。
「ちっ! 当たらなかった!」
「ココロ落ち着けよ!」
架陰が先走るココロを宥めた。
「一人で戦うな! 僕がいるんだから、もっと冷静に動け!」
「冷静に動いていられるかよ。UМAは一刻も早く仕留めてやる…」
ココロは殺気で濁った目でそう言うと、地面に刺さった刀を抜いた。
「邪魔すんなよ。センパイ」
「するわけ無いだろ」
架陰はぴしゃりと言うと、腰の【名刀・赫夜】を抜いた。
「だったら、援護したやるよ」
「援護もいらん!」
ココロが地面を蹴る。
と同時に、架陰も地面を蹴り、二人同時にリザードマンに向かって斬り込んでいった。
「くそ! 邪魔すんなセンパイ!」
「邪魔してない! 援護! これは援護!」
「どっちも一緒だボケ!」
ココロはさらに加速すると、架陰の一歩先にでた。
リザードマンが「キシャアッ!」と鳴いて、尻尾で地面を叩く。
ボンッ!
と、硬い土が粉砕されて、黒い土煙が立った。
「ココロ!」
「もう二度は喰らわないよ!」
ココロは身を反転させ、背中を向けながら土煙の中に飛び込んだ。
精神を研ぎ澄まし、煙の中に潜むリザードマンの位置を把握する。
そして、呼吸のタイミングを合わせて刀を一閃した。
切っ先に鈍い感覚。
「ちっ!」
ココロは舌打ちと共に首を上げた。
土煙が晴れる。
頭上に、跳躍してココロの攻撃を逃れたリザードマンがいた。
「だからリザードマンは嫌いなんだよっ! すばしっこくて頭がキレるんだ!」
先ほどのお返しと言わんばかりに、リザードマンが空中で身を捩る。
陽光を反射した爪が、虚空に白い軌跡を描いた。
そして、落下の勢いのままココロに振り下ろされる。
「【悪魔大翼】ッ!」
爪がココロを切り裂く寸前、架陰が叫んだ。
横から黒い斬撃が飛んできて、リザードマンの腕を消し飛ばす。
突然、自分の腕が消えたことに、リザードマンは困惑した悲鳴を上げて、動きを鈍らせた。
「はっ!」
その隙を突いて、ココロが刀を振う。
「【一の技・一条】ッ!」
胴体に叩きこまれた一撃。
一刀両断とはいかなかったが、リザードマンの二メートルはあろう巨体を吹き飛ばすことに成功した。
リザードマンがすぐ近くにあった岩に背中を打ち付けて、動かなくなったのを確認してから、ココロは振り返った。
そこには、刀を構えた架陰が立っている。
「大丈夫? ココロ」
「くそが、自分で何とかなったっつーの」
「いやいや、死ぬところだったじゃん」
その②に続く




