新たな仲間 その③
切り開いていく
新たな地平を
3
「さて、UМAを狩りまくりますか!」
ココロは手を叩いて、UМAハントに対する意気込みを見せた。
「センパイ、何体狩る?」
「何体か…」
アクアには「何でもいい」と言われているので、別に複数体狩る必要は無い。
ローペンでも適当に狩って帰るつもりだった。
「一体で十分でしょ」
そう言うと、ココロはあからさまに顔を顰めた。
「それ、本気で言ってる?」
「いや、まあ、UМAだから沢山狩るに越したことは無いけど…」
「甘いなあ…」
UМAハンターになって一日も経っていないココロは、肩を竦めてそう言った。
その挑発するような言い方に、架陰はむっとする。
「甘い?」
「甘い甘い。ボクが村で食べてたおはぎよりも甘い」
「何それ」
「UМAってのは、人に危害を加える悪魔だよ。だったら、この山に住んでいるUМA、全部狩りつくしたほうがいいんじゃないですかねえ」
「いや、それは辞めよう」
架陰は冷静にココロの提案を却下した。
「アクアさんは『なんでもいい』って言ったんだ。数の指定は無い。だけど、この山に住むUМAを狩りつくすのは効率が悪い」
「効率か」
ココロはにやにやしたまま続けた。
「ボクが一人旅している頃は、森の中のUМAを一晩で全滅させたことがるんだよ。計三十体だ」
「だからどうしたんだよ」
「センパイ、ボクと勝負しないか?」
ココロの挑戦的な目が彼を見据える。
「どちらが多くのUМAを狩れるか」
「いや、だから辞めようよ」
架陰は困惑しながら首を横に振った。
「アクアさんは僕たちに勝負をさせるためにこの任務を出したわけじゃないんだ。ココロに、UМAハンターとしての仕事を覚えてもらうことと、仲間との連携を覚えさせるために…」
「連携ねえ」
ココロは腰の刀の柄に手をかけた。
「生憎、仲間の連携は必要ないね。だって、ボクがセンパイよりも先に殺すから」
「あのねえ、話聞いてる?」
架陰は段々苛立って声を荒げた。
後輩を持つことの辛さを身に染みて感じながら、それでも、引けをとらぬように言う。
「僕はそういう対抗意識の話をしているんじゃなくて…」
「おっと、黙って」
ココロが手を出して、架陰の言葉を封じた。
「しゃべってたら、死ぬからね…」
「え…」
※
次の瞬間、架陰の背筋に冷たいものが走った。
ねっとりと肌を這うようなこの気配。
「殺気!」
ココロと架陰。
一斉にその場から飛びのく。
ドンッ!
と粉塵が上がり、二人の目の前に、黒い人影が舞い降りた。
「こいつは!」
人間の姿を鏡に写して模倣したような、歪な人間の形。体表は黒い鱗で覆われて、肉が腐ったような臭いを辺りにまき散らす。顔は蜥蜴のようで、耳元まで裂けた口からは牙と長い長い舌がちらついていた。
「リザードマンだね!」
ココロは興奮したように笑うと、腰の刀に手を掛けた。
「一気に殺しちゃいましょう!」
UМAと遭遇するやいなや、彼女は地面の土を舞いあげて踏み込むと、目にも留まらぬ速さでリザードマンに向かって斬り込んだ。
「一の技…!」
ココロが剣技を放つ直前。
リザードマンが小さく唸り、腰に生えた尾を地面に叩きつけた。
ボンッ!
と土煙が舞い、視界が灰色に染まる。
「なっ!」
ココロの目の前が霞む。
突然の目くらましに彼女の動きが鈍った瞬間、死角から伸縮する尻尾が飛んできて、頬を強く打った。
「ぐうっ!」
ココロは強靭な力に吹き飛ばされて、すぐ近くの木の幹に背中を打ち付けた。
第149話に続く




