アクアVSココロ その③
湖面に映す陽光を掬って
僕は真紅の木漏れ日を腹に宿す
3
「私の勝ちってことでいいよね?」
アクアが軽い口調でそう言うと、敗北したココロは声を荒げて反抗した。
「てめ! ふざけんな! 能力を使うなんて卑怯だぞ!」
「あんたは武器を握ったでしょうが」
白々しくそう言ったアクアは、ココロに歩み寄ると、彼女の腕を掴んだ。
ココロの了承も得ないまま、「えいや!」という掛け声と共に、彼女の外れた右腕の関節を、右肩に戻す。
ゴリッ!
と、痛々しい音が響き、ココロの腕がもとに戻る。
当然、激痛が彼女を襲うわけで、ココロは「あんぎゃああああああっ!」と悲鳴をあげた。
「てめえ! 勝手にやるなよ!」
「あ、ごめん、じゃあ、外すわ」
「辞めろ! もう外すな!」
アクアとココロがそうやってぎゃあぎゃあと騒いでいると、工房の扉が開いて、不機嫌な顔をした鉄火斎が現れた。
「なんだ、うるさい」
「あ、鉄火斎さん」
「おう、架陰、あの二人は何をしているんだよ。うるさくて作業に集中できん」
「いや、UМAハンターになるかならないかで揉めてます」
「あいつが?」
「はい」
鉄火斎は腕組みをして、「入りなさい!」「やだ! 入らない!」と言い合っているアクアとココロを眺めた。
傍から見たら、仲の悪い親子の喧嘩。
「UМAハンターになりなさい!」
「やだよ!」
「なれ!」
「やだ!」
「じゃあいい!」
「やだ!」
「やだ? じゃあ入るのね!」
「嫌だよ!」
激しい…、いや、低レベルな言い合いを続け、一番最初に折れたのはココロの方だった。
ガクッと肩を落とし、深いため息をつく。
「はいはい…、わかりましたよ…、入ればいいんでしょ? 入れば…」
「よくわかっているじゃない」
粘り勝ちしたアクアはニヤッと笑うと、ココロの肩を叩いた。
「よし! あなたは今日から【UМAハンター】!」
「絶対にすぐに辞めてやる!」
そんな二人の間に、二代目鉄火斎が割って入った。
「おい、ココロ」
「あ? なんだ!」
「オレからも頼む。UМAハンターになってくれ」
「はあ? なんでだよ! ボクは群れたくないね!」
「いやいや、そう言うんじゃなくてさ」
そう言うと、二代目鉄火斎は工房の方を指で差した。
「今、お前の【名刀・秋穂】を研いでいるんだが、やっぱりよくわからないんだ」
「よくわからない?」
名刀秋穂の話ということもあって、ココロは騒ぐのを辞めて鉄火斎を見た。
「わからないのか?」
「ああ、わからない」
鉄火斎は腕を組んで神妙な面持ちになった。
「あれはまさしく、オレの師匠である【一代目鉄火斎】の作品だよ。装飾も、刃紋もまさにそれだ」
ゴクリと唾を飲み込んで続ける。
「わからない。とにかくわからないんだ。師匠は、十年前にオレのもとからいなくなっている、その理由もわからない。どうして、お前の暮らしていた村にその刀があったのか、その村で、師匠は何をしていたのか、何もかもわからないよ」
「………」
ココロの顔が怒ったまま凍り付く。
唇の隙間から吐息が洩れ、「そうか」という言葉を発した。
「わからなかったか…」
「うん、わからなかった…」
それから、二代目鉄火斎は言った。
「これはオレからの頼みだ。UМAハンターになってくれ。今、UМAハンターは【悪魔の堕彗児】っていう謎の集団と戦っていてな…、師匠はそこにいる。だから…、あの刀の秘密もわかるかもしれん」
「……くそが」
ココロは吐き捨てるように言った。
髪の毛をかき上げて、深いため息をつく。
「わかったわかった。やるよ」
「あら、やってくれるの?」
アクアの表情が明るくなる。
「勘違いすんなよ。ボクは、あくまで、あの刀の秘密と、ボクの暮らしていた村の住人が皆殺しにされた事件について知りたいだけだ…」
「それでも十分だわ」
アクアはにこりと笑って、ココロの頭を撫でた。
「これから、よろしくね」
隠して、【心響心】は、UМAハンターになることになったのだった。
第148話続く




