【第147話】 アクアVSココロ その①
名月の秋穂は
慈愛の雨に包まれて
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「てめえ! ぶっ殺してやる!」
アクアに突如胸を触られたココロは、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
握った木刀の切っ先をアクアに向けて威嚇する。
対するアクアは、余裕の表情を崩さない。
ココロの胸に触れた白い手を胸の前で合わせて「ごめんねえ」と、心のこもっていない謝罪をした。
「意外に柔らかかったね!」
「ぶっ殺す!」
アクアに謝罪する意思がないと見たココロは、木刀を下段に構えると、土の地面を蹴ってアクアに斬りかかった。
「おおっと!」
アクアは上に跳んで、ココロの猛攻を躱す。
空中で身を捩り、ココロの背後に回り込んだ。
「まあまあ、ちょっと落ち着こうよ」
「落ち着いてたまるか!」
ココロは振り向きざまに刀を振る。
刃は空を切った。
攻撃を躱したアクアは、ココロの胸に手を当てて、トンッ! と突いた。
「うわ…」
ココロはバランスを崩して、二、三歩後退した。
「て、てめえ…」
「私と賭けをしない?」
アクアは涼し気な顔でそう言った。
ココロは警戒を解くことなく聞き返す。
「賭けだと?」
「うん、賭け。今から私と勝負して、私が勝ったら『あなたはUМAハンター』になる。逆に、私が負けたら、『あなたはUМAハンターにならなくていいし、胸を触ったことは謝罪する』っていう賭け」
「おいおい」
ココロは額に冷や汗を浮かべた。
「それ、なんか腑に落ちないんだが…」
「そうかしら?」
その瞬間、アクアが指をパチンッ! と鳴らした。
ずぶっと、ココロの立っている地面が、急激に柔らかくなる。
ココロは驚きつつも、脚に力を込めて踏ん張った。
その間隙を縫ってアクアが接近して、ココロの胸に触れた。
「条件を呑まないと、もっと触っちゃうよ?」
「て、てめ!」
またしても触れられたことに、ココロは怒りを通り越して、恥辱に支配された。
間髪入れずに、木刀を斬り上げる。
しかし、アクアは上体をのけ反らせてそれを躱した。
「どうするの? あなたはまだ本気じゃ無いみたいだし…、もちろん、私も本気じゃない…」
「ああ! 受けてやるよ! 受けて! 覚悟しやがれ!」
ココロは頷いて、アクアの「賭け」とやらを呑んだ。
ココロの了承を得たアクアは、銀色の髪の毛をさらっとかき上げて、白い歯を見せてニヤッと笑った。
悪い顔。
「じゃあ、早速、新人いびりと行きますか…」
※
「うーん、うるさい」
囲炉裏の前で眠っていた架陰は、アクアとココロの騒ぐ声で目を覚ました。
よろよろと起き上がり、開き切った引き戸を開けて外に出る。
そこには、殺気を放っているココロと、にやにやと悪そうな顔で立っているアクアがいた。
「ええ、お二人、何をしているんですか?」
「あ、架陰、ちゃんと見ててね。今から、この総司令官のアクアが、ココロちゃんをUМAハンターに引き入れるから!」
「てめ! ふざけんな! ボクはUМAハンターになんかならねえよ! すぐにぶっ殺してやるんだからな!」
二人のやり取りを聞いて、何となく察した架陰は、「ほうほう」と頷いた。
「とりあえず、見ておきますから。鉄火斎さんの家、壊さないようにお願いしますよ?」
「わかっているって!」
アクアが架陰に向かって親指を突き立てる。
その隙を突いて、ココロがアクアに斬りかかった。
「おらあ! しねえ!」
「おっと!」
振り下ろされた木刀を、紙一重で躱すアクア。
ローヒールの靴底を地面にカツンッ! と打ち付けると、特殊なステップを踏んでココロの背後に回り込む。
「こいつ!」
ココロが振り向いた瞬間、彼女の顔面い冷たい水が浴びせられていた。
水が目に入り、思わず腰が引けるココロ。
強引に作り出した隙を、アクアの手刀が襲い掛かる。
「あらよっと!」
アクアの手刀が、ココロの腹にめり込んだ。
ココロは呻き声を上げると、その場に蹲る。
「く…、そ…」
「ほらほら、もっと揉んじゃうぞ」
「この変態女!」
「あなたも女でしょうがよ」
ココロが再び刀を握り、斬り上げる。
アクアはすぐにその場から飛びのき、バク転をしながら後退した。
(くそが…、この外人女…、強い…!)
少し交戦しただけで、アクアの力量を理解したココロは、地面に唾を吐き捨て、木刀を構えなおした。
(だったら…、この技で決めてやるよ…!)
ココロの構えを見て、架陰は、初めて彼女と交戦したときのことを思い出した。
「あれをやるつもりだな…」
心響流の剣技。
強力な一撃を叩き込み、相手の行動を制限したうえで、二連撃、三連撃、四連撃と叩きこむはめ技。
「ぶっ殺してやる!」
その②に続く




