秋穂の謎 その③
星々煌々聖者の集い
桜饅頭一口食んで
天晴気質の亡者の城よ
3
アクアが、ココロと会話をしている頃。
二代目鉄火斎は、隣の工房で、彼女から預かった【名刀・秋穂】を分解して、その刃をじっと眺めていた。
雨上がりの稲穂のような、黄金。
刃紋は美しく波を打っている。
今の自分では絶対に作ることができない逸品だ。
「やっぱり、これは師匠が打ったものだよなあ…」
そう呟くと、改めて、秋穂の柄紐や鍔を見る。
どれも一級品だ。
「しかし…、師匠はなんでこんな刀を残したんだ?」
彼の師匠である【一代目鉄火斎】には、まだまだ、わからない謎が多かった。
どうして、刀鍛冶をやっていたのか。
どうして、あの時死にかけていた蒼弥を助けたのか。
どうして、彼に刀の打ち方を教えなかったのか。
どうして、あの時、失踪してしまったのか。
どうして、悪魔の堕彗児側について、彼らに武器を提供しているのか。
「くっそ、わかんねえ」
鉄火斎は髪の毛をくしゃくしゃにしながら頭を抱えた。
「師匠は何がしたいんだよ…」
それを知るためにも、この【名刀秋穂】の謎を解き明かすことが大切だった。
「とりあえず…、研ぐか…」
砥石と、すぐ近くの川で汲んできた澄んだ水をもってくると、彼は早速刀を研ぎ始める。
工房の蒸し暑い空間に、シュッシュッという音が響き渡った。
(いや、マジでこの刀なんだよ…)
師匠が残していった刀。
彼が死んだわけではないので「遺作」と表現するのは憚れるが、それでも、遺作に値する大発見だと思えた。
同時に、「恐怖」が胸のうちに湧き上がる。
「こええなあ…、これ。なんか、呪われた刀みたいで…」
そう呟いた、その時だった。
刀を研ぐ二代目鉄火斎の背筋に冷たいものが走る。
思わず「え」とつぶやき、危うく刀を落としそうになった。
「………」
キョロキョロと辺りを見渡したが、誰もいない。
「今…、視線を感じたような…」
ぶるっと身震いする。
「まあ、気のせいだよな」
そう言うことにしておくと、二代目鉄火斎はまた、刀を研ぎ始めた。
※
「ふざけんなよ!」
場面は移り変わって、工房の隣、二代目鉄火斎の住居。
囲炉裏の前で、ココロが声を荒げて凄んでいた。
一人称が「ボク」から「オレ」になっているのにも気づかず、アクアに食って掛かる。
「オレに! UМAハンターになれってか!」
「うん、そうだけど」
アクアは軽く頷いた。
「あんた、架陰に勝ったんでしょ? だったら、ここでも上手くやっていけるわよ」
「断る!」
ココロは首を激しく横に振った。
「嫌だね! 人の下に付けるか!」
「そう言われてもね」
アクアは顎に手を当てて、わざとらしく首を傾げた。
「あなたは、この要求を断れないのよ?」
「ああ? なんでだよ!」
「断ったら、私があなたを捕まえるから」
「はあ?」
「だってそうでしょう。UМAハンターでもないのに、UМAを狩りまくったんだから、それ相応に罰は受けてもらわないと」
「あんた! さっきは気にしない的なこと言ってたじゃないか!」
「気が変わったのよ」
「この女! むかつく!」
「あなたも女じゃないの」
「ボクは男だ!」
「立派なもの持っているくせして」
そう言って、アクアは手を伸ばすと今にも掴みかかってきそうなココロの胸元に触れた。
もみもみと、彼女の胸を揉む。
「やっぱり、大きいね。カレンくらいはあるんじゃないかしら?」
「あ、ああ…、ああ…」
胸を揉まれたココロの顔がみるみると赤くなる。
次の瞬間には、目を獣のように吊り上げると、傍にあった木刀をひっつかみ、アクアに向かって一閃していた。
「このアマ! ぶっ殺す!」
ヒュンッ!
と、木刀の刃が空を切った。
アクアはギリギリのところで上体をのけ反らせると、体操選手を思わせるバックステップで、外に飛び出した。
「あらあ、威勢のいいこと」
「殺す殺す! ボクの胸をメリケン粉みたいに揉みやがって!」
ココロが木刀を振り回しながら追ってきた。
外に出た二人は、乾いた土の上に立ち、対峙した。
外に飛び出す際に、靴を拾う余裕があったアクアに対し、ココロは裸足だった。
「てめえ! この銀髪頭! すぐに、ボクの胸を揉んだことを後悔させてやるよ!」
「まあ、結局そうなると思ってたよ」
アクアはめんどくさそうに頷くと、スーツを着たまま、ストレッチを始めた。
伸ばした背筋が、ボキボキと音を立てる。
「じゃあ、始めようか【UМAハンター試験】を」
第147話に続く




