心響心の目的 その②
月見兎に団子を捧げて
僕は光で空を目指す
2
縛られた三人から、少し離れた場所にある岩場にて。
「よいしょっと」
ごつごつとした岩に腰を掛けた真子が、おもむろに赤スーツの上着を脱いだ。
ポロシャツも脱いで、上半身が白いスポーツブラだけの格好になる。
彼女の右肩には、八坂に撃ち抜かれた時にできた赤黒い銃痕が残っていた。
タオルを口に咥えた真子は、傷口に指をつっこみ、ぐちゅぐちゅと肉を掻き乱しながら、埋まった銃弾を抜き出した。
「ふへえ、痛かった!」
血肉がこびり付いた銃弾を、膝の上に落とす。
「ええと、回復薬はっと…」
それから、ナップサックの中をまさぐると、【回復薬・椿油】が入った小瓶を取り出した。
見たことが無いものの登場に、心響心は興味を示す。
「それは?」
「回復薬ッス」
真子は小瓶を開けると、中の琥珀色の液体を、左手の上に流した。
「SANAが開発した優れモノッスよ」
説明するよりも、言う方が早いと判断した真子が、そのとろっとした液体を、右肩の傷口に塗り込んだ。
「こいつを塗っておけば、どんな怪我でも、一日で治るッス。UМAハンターは、任務の前にこれが支給されるッスよ」
「へえ、すごいな」
心響心が感心している横で、真子は右肩に包帯を巻き、また、ポロシャツと上着を羽織った。
「これで良しッス!」
傷口に浸み込んだ回復薬は、早速身体の治癒を促した。
傷の奥が、燃えるように熱くなる。治っている証拠だ。
手当てが終わった真子は、本題に入った。
「それで、聞きたいことがあるッス」
「うん」
「どうして、君は、UМA狩りをやっているッスか?」
「それは…」
「教えてえくださいッス。でないと、私、君を捕まえないといけなくなるッスよ」
心響心は、むっと唇を結んだ。
腰に携えた刀と、真子の顔を交互に見やって、小さく舌打ちをする。
そして、語り始めた。
「この刀の製作者を探していたんだ」
「その刀の?」
「うん、【名刀・秋穂】っていう名前なんだけど」
そう言うと、心響心は、刀を鞘から抜いた。
黄金色の刃が、陽光に照らされて神々しく光る。
「すごい綺麗ッスね」
「だろ?」
真子に褒められて、心はまんざらでもない様子だった。
「この刀…、よくわからないんだけど、不思議な刀でね」
そう言うと、心響心は突然立ち上がった。
その瞬間、上空からプテラノドンのような姿をした巨鳥が襲い掛かってきた。
「あれは! ローペン!」
「雑魚だな」
心響心は、冷たく吐き捨てると、岩を蹴って跳躍した。
そして、迫りくるローペンを、その刀で斬り捨てる。
ローペンは悲鳴をあげて、すぐ近くの茂みに墜落した。
「見てろよ」
そう言うと、心はローペンの死体に、刀の切っ先を向けた。
すると、ローペンの死体から、黒い靄のような物質が湧き出して、名刀・秋穂の黄金の刃に吸い込まれていった。
「今の、何ッスか?」
「ボクにもよくわからん」
使い手の心響心は、そう言うと、刀を鞘に納めた。
「UМAを斬り捨てると、ああやって、死体から黒いものが出てきてな、この刃に吸い込まれるんだ」
「その、謎の刀の正体を探るために、UМA狩りをしているッスか?」
「まあ、そんなものだな。斬り殺したUМAから出てくる物質は何なのか…、それを取り込んだこの刀は何なのか…。色々試しながら、こうやって旅を続けているんだよ」
心はあっさりと言い放つと、腰の刀の柄を優しく撫でた。
「まあ、理由は他にもあるんだけどね。とにかく、この刀を作ったやつを探し出さないことには始まらないんだ」
「そりゃあ、大変ッスね」
真子が相槌を打つと、心はすっと目を細めた。
「製作者の鉄火斎には、洗いざらい白状してもらおうと思っているよ。この刀は何なのか…、そして、あの日、どうしてボクの村は滅びることになったのかを…」
その③に続く




