【第145話】 心響心の目的 その①
家族が嫌いだ
ただの血の繋がりだけで
そこに「絆」を見出すのはいささか強引
僕は「家族」を嫌悪する
ならば血の繋がりの無い貴方と
笑って
泣いて
怒って
美味しいものを食べて
その先にある「絆」に
公園の砂場で見つけた栄養剤の破片のような輝きを見出す
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「うーん…」
「うーん」
「うん?」
架陰、二代目鉄火斎、そして、八坂の三人は、同時に目を覚ました。
パチッと目を開けた瞬間、身体の異変に気が付く。
「あれ?」
「あれれ?」
「あれれれ?」
三人は背中を突き合せて、強靭なロープで拘束されていたのだ。
「なんだこれ…」
身に起こっていることを理解することができず、架陰は身体をもぞもぞと動かした。
「架陰やめろ、くすぐったい」
「あ、ごめんなさい」
状況把握のために、三人は辺りを見渡した。
一面、山の木、木、木、木。
日当たりが悪いせいで、黴と水の生っぽい臭いが充満している。どうやら、先ほどとは別の場所に移動させられたようだ。
八坂が言った。
「あれ、見てください…」
彼が顎で指した方に、架陰と二代目鉄火斎は目を向けた。
辺りでは一番大きな木の幹に、一枚の白い紙が貼られている。
紙には、大きな文字で「ごめんなさいッス! 少しおとなしくしていてくださいッス!」と綴られていた。
語尾が「ッス」。
「え、あれ、真子ちゃんが書いたの?」
「そうみたいですね」
八坂がげんなりとした顔で頷いた。
「あの蚯蚓が這ったみたいな文字…、間違いなく真子の字ですよ」
「ええ、なんでえ…」
辺りを見渡しても、真子の姿は無かった。
「くそ…」
八坂は額に冷や汗を浮かべて下を向く。
「もしかして、あの学ランを着た男に連れ去られたんじゃ…」
「八坂君…」
「あいつ、肩を怪我をしているんですよ? しかも、ボクが銃で撃ち抜いた…」
八坂は責任を感じていた。
例え、真子とは犬猿の仲だとしても、己のふがいなさでスレンダーマンに操られたのは自分だ。
そして、自分を救おうとしてくれた真子を、銃で撃ち抜いた。
あの時、咄嗟に神経系統を狂わせて狙いを外したから致命傷にはならなかったが、それでも、放っておけば失血してしまう怪我だ。
「ボクのせいです…、すみません」
「気にしないで」
罪悪感に苛まれる八坂を、架陰は落ち着けた。
「スレンダーマンは、よくわからないけど、消えたんだ。もう大丈夫だ。今は、真子ちゃんが何処に行ったのか、この拘束をどうやって解くかを考えよう」
「拘束は解けるだろうが」
二代目鉄火斎がもぞもぞとしながら言った。
「お前の【魔影】の能力を使って、このロープを切断すればいい話だろ」
「それが、できないんですよ」
目が覚めた時から、架陰は身体から魔影を少量解放して、空中で刃の形に変形させて、ロープの切断を試みていた。
しかし、上手くいかなかったのだ。
「どういうわけか…、魔影を上手く動かせないんです」
「魔影が動かない?」
「はい…、いつもなら簡単に操作できるんですけど…、今は、なんか、電池が切れかけたラジコンカーみたいになってます」
まるで、初めて魔影を扱い始めた頃のようだった。
もう一度、身体から魔影を放出する。
黒い霧のような物質が、空中に浮かび上がった。
それに意識を集中させて、【ナイフ】の形に変形させる。
ここまではいい。問題はその次だ。
ナイフに変形させた魔影を、ロープの方へ持っていこうとした瞬間、魔影は波を浴びた砂のお城のように、ボロボロと消滅した。
「こうやって、消えるんです」
「まだ本調子じゃないのか?」
「でも、あの学ラン女と戦っている時は、普通に使えたんですけど…」
胸の奥に、チクチクとしたものが引っかかる。
(くそ…、どうなっているんだ?)
そう、彼が焦った瞬間、耳の奥に、ジョセフの声が響いた。
(魔影が使えなくなったみたいだね)
(ジョセフさん! これ、どうなっているんですか?)
ジョセフと架陰は、精神の中で会話を続けた。
ジョセフが「うーん」と唸る。
(僕にも、よくわからない。だけど、一緒にいたはずの悪魔が、ピクリとも動かなくなったんだ)
(悪魔が、動かなくなった?)
架陰の背筋がすっと寒くなった。
(それ、大丈夫なんですか?)
(大丈夫だとは思うよ)
ジョセフは曖昧に返事した。
(悪魔の魂はまだ、君に取り憑いているし…、僕の隣にもいる。ただ『活動を停止した』と表現する方が正しいのかもしれないね)
(活動を停止した…?)
今まで悪魔と共に過ごしてきた架陰だが、悪魔が活動停止に陥ることなど無かった。
(……)
あの学ランを羽織った女と遭遇してから、次々と予想外のことが起こっている。
ジョセフは話を締めるために、架陰に言った。
(とにかく…、悪魔が目覚めるまで、君は【魔影】の能力が使えない…、敵戦には十分気を付けるんだ)
その②に続く




