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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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鉄火斎と心 その②

白桃一つ捥いで食む桃源郷の空の下


僕たちは河原の白濁に身をかがめ


輪廻転生の環を見つめている



「さあ、たっぷりと話を聞かせてもらうからな! 鉄火斎!」


二代目鉄火斎を捕まえた心響心は、彼の関節を固めたままそう言った。


鉄火斎は、肘に走る激痛に耐えながら、心に抗議をする。


「ちょ、ちょっと待て!」


「ああ?」


「話って、何のことだよ!」


「とぼけるなよ…?」


心響心は、声のトーンを落としてそう言う.


学ランのポケットから、リボンのようなものを取り出すと、それを、木に突き立った刀に向かって放つ。


リボンのようなものは、刀の柄に巻き付いた。


心はそれを引っ張り、手元に引き寄せた。


刀を回収すると、その雨上がりの稲穂のような黄金の刃を、地面に伏している二代目鉄火斎の首筋に当てた。


「おい、鉄火斎。貴様、この刃に見覚えがあるだろう?」


「え…」


鉄火斎は泥だらけになった顔をあげて、刃を見た。


やはり、刀鍛冶ということもあり、突き出された刀の波紋をじっと見つめる。


「ようやく思い出したか」


二代目鉄火斎の反応を見て、心響心はにやっと笑った。


「それは、お前が打った刀、【名刀・秋穂】だよ」


「名刀…、秋穂?」


二代目鉄火斎は目を見開いて、心の方を見た。


心は少しだけ彼の拘束を解く。


「そうだ、お前が作った刀だ…」


「いや、何だよ、これ」


「は?」


緊迫していた空気が、一瞬にして緩む。


拘束も緩む。


心響心は狼狽えて、彼の鼻先にまで刀を突きつけた。


「おいおいおい、冗談はやめろよな。この刀は、【名刀・秋穂】。お前が打った刀だよ。な? な? な?」


な?


と合意を求められても、心当たりが無かった。


二代目鉄火斎はふるふると首を横に振る。


「知らねえよ。こんな刀…」


「嘘つけ!」


心響心は声を荒げた。


「これは! お前が! 打った! 刀だ!」


「だから、知らねえって!」


いい加減な正確の二代目鉄火斎だが、自分が打った刀くらいは覚えている。


記憶に無いのだ。


この、【名刀秋穂】という名の、黄金の刃を持つ日本刀に。


(まあ…、多分…、あれだろうな…)


わからない。


と言いながらも、二代目鉄火斎はこの刀の製作者について、うすうす勘付いていた。


視界の隅に、ある男の姿がちらつく。


取り乱しているこの男に教えてやりたいところだが、殺意剝き出しで襲ってくる彼に、有益な情報を渡していいのかがわからない。


彼の目的は一体何なのか?


どうして、彼がこの刀を持っているのか。


(とりあえず、様子見と行きますか)

 

心響心は、取り乱したまま続けた。


「おい、何とか言ったらどうだ! じゃあ、なんでこの秋穂の製作者が【鉄火斎】になっているんだよ!」


「っ!」


鉄火斎ははっとして、心を見た。


「その刀に、【鉄火斎】の銘が刻まれているのか?」


「ああ、そうだ! しっかりと刻印されている!」


心は刀を引くと、柄の装飾を手際よく解いた。


剥き身になった刀を、拳の腹でパンッ! と叩くと、乾いた音を立てて、柄を構成する木が外れた。


「ほら、見ろ!」


刀の根幹。はばぎの部分を見せてくる。


そこには、確かに「秋穂・鉄火斎」と刻印されていた。


(なるほどな)


その名前を見て、二代目鉄火斎は合点がいった。


(この刀…、師匠の作品か…!)


「その顔、見覚えがあるみたいだな」


心響心は、鉄火斎の頬がぴくっと動くのを見逃さなかった。


慣れた手つきで、刀の装飾を戻し、柄紐を巻き付ける。


「知っていること、全部話してもらうよ。ボクが今まで、UМAを狩ってきたのは、この刀に血を吸わせるためでもあったし、お前を探すためでもあったんだ」


「オレを、探すため?」


二代目鉄火斎というよりも、これは、彼の師匠である【一代目鉄火斎】が深く関係していそうだった。


鉄火斎は面倒ごとに巻き込まれて、静かにため息をついた。


「くそが…、めんどくせえ…」


その時だった。


二代目鉄火斎の上に馬乗りになっていた心響心の身体がびくっとした。


「くそ!」


心は舌打ちとともに、鉄火斎の上から飛びのこうとする。


それよりも先に、背後から気配を消して近づいた架陰が、心の華奢な身体に飛びついた。


「捕まえた!」


「てめ! 気絶させたはずじゃ!」


確かに、心響心は、架陰に強烈な一撃を加えて、意識を奪ったはずだった。


しかし、彼の心には【悪魔】と【ジョセフ】は宿っているのだ。彼が意識を失っても、悪魔らの力によって、簡単に起き上がることができることが可能だった。


「さあ、さっさとお縄についてもらうよ!」


先ほどの仕返しと言わんばかりに、架陰は、心響心の身体に、腕と脚を、タコのように絡めた。


身動きを封じて、そのまま、地面に押し倒す。


「この!」


心響心が暴れる。


架陰は必死になって、彼を押さえつけようとした。


その時だ。


むにいっとした感触が、架陰の手に残る。


「へ?」


はっとして見ると、彼の手は、心響心の胸の辺りを這っていた。


「へ? へ? へ?」


押さえつけられた心響心の顔が、かあっと赤く染まった。


次の瞬間、拘束を振りほどいた心響心の平手が、架陰の顔面を捉えた。


「きゃああああああ! 変態ッ!」


「ぐへえ!」






その③に続く


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