【第143話】 名刀・秋穂 その①
この先のお話は
秋穂の下で
1
「作戦通り行くよ!」
「はいッス!」
「おうよ!」
三人の目的は、八坂からスレンダーマンを取り除くこと。
彼を傷つけずに、確実に意識を奪いに行くことだった。
(まずは、僕と鉄火斎さんが、八坂君の注意を引く!)
山の中を彷徨っていた八坂の前を横切る。
すかさず、八坂は右手に装備していたレボルバー式の拳銃の銃口を架陰に向けた。
身体は操られていても、意識はあるようで、必死になって懇願する。
「架陰兄さん! 逃げてください!」
銃口を引いた。
ドンッ!
火薬が爆せる音と共に、銃口から鈍い灰色をした銃弾が発射された。
それが、走る架陰に迫る。
架陰は身を反転させて銃弾の方を向き直ると、腰の刀を抜いてそれを弾いた。
立て続けに発砲する八坂。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
合計五発の弾丸が、一気に架陰に押し寄せた。
「やっば!」
架陰は能力を発動すると、腕に魔影を纏わせて迫る弾丸に向かって突きつけた。
「魔影盾!」
途端に、魔影が変形して、漆黒の盾となる。
(どうだ…?)
ボスッ! ボスッ!
と、弾丸が、柔らかい布団を叩くような音を立てて、魔影によって作り出された結界に飛び込んで、勢いを弱めた。
「よし!」
弾丸を封じ込めた架陰は、二代目鉄火斎に指示した。
「二代目鉄火斎さん! 出番です!」
「おうよ!」
二代目鉄火斎が腰の刀に手を掛けて、着物の裾を揺らしながら飛び出した。
真子が言っていたことだった。
「八坂さんの使っているレボルバー式の拳銃は、最大六発ッス。なので、六発放った後には装填作業がはいるので、必ず隙が生まれるッス!」
つまり、チャンスは、六発撃ち切った今。
先ほどの八坂の狙撃術が架陰の想像の先を行っていたように、装填作業の隙を突くだけで、八坂の動きを封じれるとは思っていなかった。
八坂は素早い動きで、腰のベルトに収納していた弾丸をレボルバー式の拳銃に込める。
「させるかよおッ!」
二代目鉄火斎が、虚空に向かって刀を一閃した。
「鉄火斎秘儀ッ! 【火々攻め】ッ!」
二代目鉄火斎の能力は【炎】。虚空を切り裂いた刃から、赤い炎が放たれて八坂に迫った。
迫る炎に、八坂は装填を中断して後ずさる。
「あらよっと!」
二代目鉄火斎は炎を自在に操り、八坂の周りを取り囲んだ。
「火の近くで火薬の込められた弾が触れるかよ! 触れねえよなあ!」
これは、もちろん陽動だった。
銃の扱いなら、八坂が一番理解している。
八坂はすかさず弾を込めなおすと、自分を取り囲む炎の壁に向かって引き金を引いた。
炎を突き破って、銃弾が二代目鉄火斎に迫る。
「やっぱそうだよなあ!」
二代目鉄火斎は銃弾を叩き落しながら、勝利の笑みを浮かべた。
「さっさと決めろや! 真子オッ!」
二代目鉄火斎と架陰の相手をして意識が散漫になっている八坂。
彼の背後の木々の枝を蹴って、真子の小柄な身体が飛び出した。
「八坂さん! ごめんッス!」
空中に飛び出した真子は、【名弓・天照】の弦を引き絞った。
そして、矢を放つ。
「喰らえッス! 【麻酔矢】!」
弦が戻るときの反動で、勢いよく射出された麻酔矢が、舞い散る炎を貫きながら八坂に迫った。
狙うは、彼の肩。
「少し痛いッスよ!」
銃弾よりも遅く、しかし、銃弾よりも静かに放たれた矢は、八坂に気づかれることなく、彼の右肩を…。
穿つことは無かった。
鏃が彼の肩に突き刺さる直前、矢が風に煽られたように軌道を逸らし、上空にかち上げられたのだ。
「え…!」
真子の顔がさっと青くなる。
空中に舞い上がった矢は、バキリッ! と折れた。
八坂が真子の存在に気づき、振り返る。
そして、銃を発砲した。
ドンッ!
弾丸が真子の肩を貫く。
「真子ちゃん!」
真子は「あうっ!」と悲鳴をあげて、地面に墜落した。
「な、なんで…ッスか?」
肩に空いた穴から、赤黒い血がどろどろと流れ出し、地面に広がる。
体勢を立て直そうにも、身体に力が入らなかった。
血の生温かい感触の中、真子がおぼろげな目を開けた時、八坂の隣に誰かが立っていることに気が付いた。
「情けないぞ、UМAハンター」
八坂を護るようにして立っていた者。
それは、いつの日か、真子が対峙した【UМA狩り】だった。
黒い学ランを身に纏い、短く、艶やかな茶髪。目は猫のようにツンとして、ニヤリと笑った口から八重歯が顔を覗かせていた。
「さて、ハンター狩りと行こうじゃないか」
その②に続く




