スレンダーマン その③
騎士は愛を歌いたかった
3
スレンダーマンに操られた八坂から距離をとった三人は、茂みに身を隠して作戦を考えた。
「どうするッスか? 架陰くん!」
「どうするって言ったって…」
架陰は【回復薬・桜餅】を齧り、脇の傷の具合を確かめた。
「八坂君のことを放って置くわけにはいかないよ。だから…、すぐに戻るよ」
「だけど」
「うん、八坂君の狙撃術を、正直見くびっていた…」
架陰は、自分の脇の傷と、二代目鉄火斎の肩の傷を交互に見やった。
思い出すは先ほどの光景。
架陰が、魔影刀を地面に叩きこんで、八坂の足元を崩したと言うのに、彼はその無理な体勢から拳銃を発砲して、架陰に当てた。
「………流石だね。椿班の狙撃手は」
正面から向かって行けば、一瞬で撃ち抜かれる。
「さて、どうしたものか…」
目的は、「八坂の意識を奪う」ことだ。そうすれば、彼に取り憑いたスレンダーマンを引きはがすことができる。
架陰の魔影を使えば、彼を殺しかねなかった。
「とにかく、作戦を練った方がいいだろ」
二代目鉄火斎が、着物を脱いで、肩の傷に包帯を巻きながら言った。
「あいつは狙撃手だぜ。だったら、背後に回り込むとか…、こっちも狙撃で対応するとか」
「狙撃ね」
「私の弓矢なら、狙撃できないことはないッスけど…」
真子は言いにくそうに表情を暗くした。
「弓矢は、あくまで中距離武器ッス。ある程度、八坂さんに近づかないとあたりませんッス。そうしたら…、近距離で有利になるのは、八坂さんの方ッスよ」
「ああ、そうか…」
真子には機動力がない。
もし、狙撃に気づかれて、八坂に狙撃でもされたら…。
「ですけど、一応、【麻酔矢】は装備してるッス」
真子はそう言うと、背中に背負っていた矢のケースから、一本の矢を抜いて見せた。
「麻酔矢か…、何とか活躍させたいところだね」
「そうなんッスけど…、これ、一本しか無いッス」
「一本じゃあ不安なの?」
「違うッス。これは、もし、今回の目的である【UМA狩り】と遭遇したら使おうと思ってたやつッス」
真子はむうっと頬を膨らませた。
扱うときに誤って怪我をしないためか、矢の鏃には布が巻かれている。
真子は、それを器用に指でくるくると回した。
「八坂さんが悪いッスよ。スレンダーマンの存在に気づかずに、取り憑かれてるッスから」
「スレンダーマンに取り憑かれる前には、前兆みたいなのがあるの?」
「あるッスよ」
真子は得意げに言った。
「他の人間には見えないものが見えたり…、他の人が気づかない気配を感じ取ったりするッス」
「気配?」
架陰には心当たりがあった。
最初、この山に踏み入った時のことだ。
八坂が突然「茂みの中に何かがいる」と叫んで、ライフルを構えたときがあった。
結局、茂みの中には何もいなくて、「逃げた」ということで片づけて忘れていたが…。
「もしかして、あの時から、八坂君はスレンダーマンに取り憑かれそうになっていたのか…?」
「え、そんなことありましたっけ?」
きょとんと首を傾げる真子。
「え…」
「私、八坂さんに興味無いッスから、あの人が何をしようと、あんまり覚えてないんッスよ」
「あのねえ…」
精神系のUМAの打開策を考えている時に、そういった、おぼろげな記憶を語られると、「これもスレンダーマンの能力なのか?」と勘ぐってしまうのでやめてほしかった。
「真子ちゃん、大丈夫だよね? 単に記憶力が無いだけだよね。スレンダーマンに取り憑かれてないよね?」
「もしかして、私のこと馬鹿にしてます? まあ、馬鹿ッスけど」
真子は麻酔矢をケースにしまった。
「前にも言ったかもしれないッスけど…、私たちは孤児ッスからね。まともな教育は受けてないッスよ。鉄平さん、山田さん、八坂さん…、全員、腕っぷしでここまで這い上がってきた荒くれものッス」
それから、真子は愛嬌のある笑みを浮かべた。
「だから、肝は座っているッス。さっさと、八坂さんをぶん殴って助けるッスよ!」
「そうだね」
架陰はこくっと頷いた。
※
それから、二代目鉄火斎の三人で頭を突き合せて、八坂をどうやって止めるか思考錯誤した。
その時間、約一分。
UМAハンターは、人命に関わる仕事だ。
思考はいつも冷静に。
行動は的確に、判断は一瞬で。
その一分で作戦を練った三人は、再び八坂が彷徨っている場所に向かって走り出した。
「じゃあ、作戦通り行くよ!」
「わかったッス!」
「おうよ!」
第143話に続く




