新章・名刀・秋穂編 開幕 その②
僕が笑い度に
誰かの朝ごはんが失くなるなら
僕が飛び跳ねるたびに
熱砂の蟻たちが潰れるのなら
僕は幸せなどいらない
2
「とにかく、車に乗りなさいよ。募る話はそれからにしましょ」
アクアに促されて、架陰は、病院の前の駐車場に停められたワゴンの助手席に乗り込んだ。
カレンと二代目鉄火斎は後部座席に乗り込む。
全員乗ったことを確認したアクアは、静かに車を発進させた。
白いワゴンは、車道に出て、滑らかに走る。
少し走ったところで、アクアは話の続きを始めた。
「退院早々悪いんだけど…、架陰、ちょっと、任務に出てくれないかしら?」
「任務ですか? いいですけど…」
頷く。
それから、自分の腹を押さえた。
「でも…、手術で腹にメスを入れているんで…、まだ調子が戻っていません…。あまり強いUМAとの戦いは…」
「ああ、大丈夫。UМA退治じゃないから」
「え…」
UМAじゃない。
その言葉に、カレンが反応した。
「もしかして、最近話題になっている…【UМA狩り】の話ですか?」
「そうよ」
アクアはハンドルを右に切りながら頷いた。
「実はね…、最近…、UМAを勝手に狩っている輩がいるのよ」
「UМAを勝手に?」
架陰は首を傾げた。
「UМAハンターとかじゃなくて?」
「そう。あなたが入院している間、椿班とと合同で、任務に出ることが多くなったんだけど…、現場に向かうと、UМAが既に息絶えているってことが多くてね…。この一月だけでも、三匹のUМAを、何者かの手によって狩られたわ」
「その犯人の調査を、僕に?」
「ええ。もちろん、一人じゃないわ」
アクアが頷くと、ワゴン車は民家の建ち並ぶ路地に侵入して、細い道を進んだ。
そして、とある公園の前に停車する。
スライド式の扉が開くと、公園で待ち合わせしていた者がワゴン車の中に入ってきた。
赤いスーツを身に纏い、栗色の髪の毛を頭の後ろでお団子状にまとめている、幼げな少女。
赤いスーツを身に纏い、ゲームのし過ぎで目元に黒い隈を浮かべた少年。
椿班・四席【矢島真子】
椿班・三席【八坂銀二】だった。
「あれ、真子ちゃんに、銀二くん! どうして?」
任務以外で会ったことがない二人の登場に、架陰は目を丸くした。
真子はいつも通りの快活な笑顔を架陰に向けた。
「お久しぶりッス! 架陰くん!」
八坂も社交辞令と言わんばかりに、かるく会釈した。
「どうも、架陰にいさん」
真子と八坂が乗り込んだことを確認したアクアは、ワゴンのスライドドアを閉じた。
それから、また車を発進させる。
どうして、この二人が架陰の【UМA狩り調査】の任務に同行することになったのか、経緯を説明した。
「この二人はね、ハンターフェスの前に、例の【UМA狩り】と遭遇したことがあるのよ」
「え、そうなの?」
助手席から後部座席を振り返る。
真子は「はいッス!」と敬礼した。
「八坂さんと二人で任務に出てた時に、うっかり遭遇しちゃったんスよね!」
「そ、そうなの…」
聞いてもいないのに、真子は当時の出来事を嬉々として語り始めた。
「いやあ、凄かったッス! あのUМA狩り、鬼蛙を一瞬で一刀両断して、私たちを圧倒したッスからね!」
「真子ちゃんたちを…?」
バンイップとの戦いで、椿班の四名の実力は重々承知だ。
手練れの椿班の真子と八坂を、圧倒する一般人?
「それ…、人間じゃないんじゃ…」
「いや、人間ッスね」
真子はきっぱりと断言した。
「だって、胸やわらかかったッス。それに、人語も話していたし…、ああ、あと、『一代目鉄火斎を知っているか?』とかどうとか…」
「む? 一代目鉄火斎だと?」
真子の言葉の最後に反応したのは、後部座席で腕を組んでうつらうつらしていた二代目鉄火斎だった。
目を開けて、真子を見る。
「そのUМA狩りって、本当に『一代目鉄火斎』って言っていたのか?」
「はい、そうッスよ?」
「オレは二代目鉄火斎だ」
「あらあ、お弟子さんッスか!」
「うん、弟子だけど…」
車内は微妙な空気に包まれた。
UМAハンターが駆け付ける前に、UМAを退治してしまう、正体不明の『UМA狩り』。
それに出会ったことがある、椿班の二人。
そして、彼らがそのUМA狩りから聞いた、『一代目鉄火斎』という言葉。
(何の関連性があるんだ…?)
「とにかく」
アクアが口を開いた。
「今回はその調査をしてもらうわ。調査員は、桜班・下っ端【市原架陰】。椿班・三席【八坂銀二】に、椿班・四席【矢島真子】。そして、刀を新調したばかりの架陰の援護として、【二代目鉄火斎】。この四人に行ってもらうわね」
「あ、カレンさんは?」
「ごめんね、架陰くん。私は別の任務があるの」
「ああ、そうですか」
少し残念。
しゅんとする架陰にカレンは慈愛に満ちた声で話しかけた。
「頑張ってね! 私、応援してるから!」
「は、はい! わかりました! 頑張ります!」
現場に赴くメンバーが決定すると、アクアは少しワゴン車のスピードを速めた。
「じゃあ、今から現場に向かうわよ」
その③に続く




