【第135話】 鬼の来襲 その①
鬼の背を見て
畜生外道
魑魅魍魎と陰摩羅鬼
これ夜の百鬼の
大名行列
1
「今から、私の能力を解放する!」
そう言って、鬼丸は自身の刀を地面に突き立てた。
架陰の身体が強張る。
「能力だと…!」
戦いに夢中で忘れていたが、鬼丸は悪魔の堕彗児の一人である。彼は今まで、人間の姿で架陰と戦っていたのだ。
人間の姿ということは、まだ、「UМAの姿」を見せていないのだ。
「させない!」
すぐさま、地面を踏み込んで、斬りかかる。
(これ以上強くしてたまるか!)
「もう遅い!」
鬼丸が野太く叫んだ。
「喰らえよ…!」
次の瞬間、彼の身体が赤く発光した。
そして、地面に突き立てた刀を抜くと、迫る架陰に向かって振り切る。
「【鬼】!」
※
気が付いた時、架陰はビルの壁に身体をめり込ませていた。
「え…」
遅れて、身体中の皮膚が裂けて、血が吹き出す。
あばらを折ったようで、胸の奥で鉄骨が軋むような音と共に、激痛が宿っていた。
(反応、できなかった…?)
確かに、数秒前まで、架陰は鬼丸に向かって斬り込んでいた。
鬼丸が能力を解禁し、刀を振った瞬間、意識を失い、そして、壁に叩きつけられたのだ。
「く…」
胸の激痛に耐えながら、めり込んだ身体を剥がして、地面に着地する。
出血で歪む視界の中、鬼丸の姿を見た。
「それが、お前の、能力か…」
「ああ、名前の通りだよ」
鬼丸の体表は、虐殺を繰り返した熊のように真っ赤にそまり、腕に岩のような突起が突き出ていた。
細く凛々しかった目は、金色に染まり、獣を彷彿とさせるほどギラギラとしている。
頭部には、鬼特有の角が天を貫かんと生え、握った刀はその形を変え、鈍い灰色で、突起だらけの金棒になっていた。
その姿、まさに「鬼」。
「これが私の能力、【鬼】だ」
鬼丸はそう言うと、血まみれの架陰に金棒を向けた。
「驚いたか?」
「ちょっとは…」
「ここから先は【剣戟】ではない。【虐殺】だ。私の名刀【鬼丸】は、能力解放の影響を受けて、金棒に変化した。これでは、相手を斬る事ができない…」
そこまで言って、鬼丸は重々しい雰囲気を放つ金棒を引いた。
「だが、相手を叩きつぶすことに関しては、優秀な武器だ!」
金棒を鈍重に空気を斬りながら一閃した。
「【鬼雷砲】」
振り切った金棒から、砲撃のような赤い衝撃波が放たれた。
はっとした架陰は、とっさに、腕を胸の前で十字に交差させて、魔影で防御を図る。
次の瞬間、衝撃波にさらされた彼の身体は、裂けた傷から血を噴出させながら吹き飛んでいた。
「くそ…、防ぎ切れなかった!」
威力が格段に上がっていた。
少しでもその攻撃に触れれば、一瞬で命をあの世に持っていかれるのだ。
「があっ!」
ビルの壁に背中を打ち付ける。その拍子に、彼の身体の骨のひびが広がった。
「あああ!」
首の後ろで、白い火花が弾ける。
消し飛ばされそうな意識を必死に留めて、体勢を立て直した。
「落ち着け! 落ち着け! 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!」
現状を理解するのだ。
鬼丸は能力を解放して、鬼の姿に変貌した。
ただ姿が変わっただけではない。そのひと振りは地面を抉り取り、架陰の命さえも脅かす。
(攻撃力だけじゃ、ないよな…)
単に攻撃力が上がったのなら、それはまだ可愛い方だ。攻撃を当てられなければいい話なのだから。
(多分、反射神経もよくなっているよな…)
今、架陰がうかつに鬼丸に斬り込んだらどうなるだろうか。
さしずめ、超反射のカウンターが返ってくる。
もちろん、これはタダの憶測だ。だが、得体の知れないものと対峙した今、そのくらいの警戒心は持っていて不足はない。
「くそ、うかつに、近づけない…」
「近づかないか…、懸命だな」
鬼丸はニヤッと笑った。三日月のような形をした口から、鋭い牙が顔を覗かせている。
「だったら、私の方から行かせてもらうぞ」
ドンッ!
一瞬で、架陰の視界から鬼丸が消えた。
「え…」
何処だ?
と首を回した瞬間、彼の腹に、金棒が叩きこまれていた。
ミシリと、内臓が押しつぶされ、骨が砕ける音が耳にこびり付く。
一瞬で視界が真っ赤に染まり、「死」の一文字が脳裏を掠めた。
「がはっ!」
「攻撃力だけではない、速度も上げられる」
張りつめていた命の糸が、ぷつんと切れる。
(ああ、だめだ!)
架陰は、意識が途切れる寸前で命を糸を繋ぎとめた。
(勝たないと! 勝たないとダメだ! この男に!)
その②に続く
補足
鬼丸の能力は、彼の名前にある通り【鬼】です。解放すると、身体が鬼に変わります。「斬る」攻撃から、「押しつぶす」攻撃に変化します。彼の放つ衝撃波をもろに喰らえば、内臓の一つや二つは潰されます。




