第18話 椿班登場!その③
夜を咲く
梟の目
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戦いと聞いた途端、鉄平の目が、血に飢えた獣のようにギラりと光った。
架陰に鉄パイプを突きつける。
「てめーも刀を抜きやがれ!」
「えっ!?」
架陰はビクついて、反射的に刀に手をかけた。だが、抜く気にはなれない。
「ま、待ってくださいよ!」
「覚悟決めやがれ!!」
ドンッと地面を蹴った鉄平が襲いかかってきた。
「行くぜっ! 【鉄棍】!!」
鉄パイプの正式名称を叫び、架陰に振り下ろす。
「くっ!!」
架陰は何とか刀を抜いて防いだが、勢いを受けきれず、後方に吹き飛んだ。
(なんでだよー? 勝負を受けたのはクロナさんだろ!?)
腑に落ちないまま、路傍の植え込みに身体ごと突っ込む。
「オラオラぁっ!!」
鉄棍を振り回しながら鉄平が追撃する。
架陰は腹筋を利用して起き上がるが、目の前に鉄平が迫っていた。
「鉄刀!!」
「鉄棍!!」
ギンッ!!と激しい金属音を響かせて、架陰の刀と鉄平の鉄パイプがぶつかった。
架陰の身体がガクンッ!とふらつく。
(打ち負けた!!)
「遅せぇ!」
切り返した鉄平の鉄棍が、架陰の頬を打った。
「うっ!!」
「まだまだァ!!」
さらに連続で鉄棍を振り回し、架陰をなぶっていく。
脳が揺れる。歯が軋む。
(これは・・・、痛い!!)
「オラァ!」
鉄平の細長い脚が、架陰の腹にめり込んだ。
「ぐっ!!」
吐き気と共に胃酸が込み上げた。それを何とか堪え、腹筋に力を込める。
「へえ、いい体幹だな」
蹴りに耐えた架陰を、鉄平は素直に褒めた。しかし、「だがっ!!」と叫んで、架陰の頭を打った。
「がはっ!」
吹き飛ぶ架陰。
「弱いことに変わりはねぇ」
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架陰と鉄平の戦いを、椿班副班長の山田は傍観していた。
坊主の頭に、堅いものが押し当てられた。
「あんた、副班長ね!」
クロナの拳銃だった。
山田は、銃を押し当てられても微動だにしない。
(何こいつ、気持ち悪い・・・)
山田は、架陰と鉄平の戦いを見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「三席ですね」
「・・・、そうだけど?」
「私は、副班長でございます」
「それがどうしたのよ!」
階級の差から、まるで「私にはかなわない」と言われているようで、クロナは苛立ちを隠さなかった。
しかし、次に放った山田の言葉は、全く別のものだった。
「もう二人、いるんですよ?」
「!?」
何かが近づいてくる気配を感じとる。
振り返ると、先端が炎に包まれた矢が迫っていた。
「w-Bullet!!」
直ぐに引き金を引き、弓矢を撃ち落とす。
だが、さらに数十本の弓矢が遠くから打ち上げられ、丁度クロナの頭上から雨のように降り注いだ。
「これは!!」
「椿班の狙撃手の、一人ですよ」
山田は口だけでニヤリと笑い、跳躍して弓矢の射程距離から逃れた。
クロナは舌打ちをすると、アスファルトを蹴り出した。
「舐めないでよ!!」
一瞬で、火矢の届かない場所に移動する。
最初、架陰とクロナを襲った弓矢。てっきり、山田が放ったものだと思っていたが、「三人目」がいたとは。
(けど・・・、弓矢は遅い)
拳銃で撃ち落とした弓矢も、跳ぶことによってかわした弓矢も、クロナの動体視力なら容易に防ぐことができる。
クロナはパキリと指を鳴らした。
「まずは副班長を片付けさせてもらうわ!!」
弓矢の襲撃を気にしながら、山田に襲いかかる。
しかし、山田はまたしても微動だにしない。
「甘い・・・!」
次の瞬間、クロナの肩がカッと熱くなった。生温かい血が吹き出す。
「えっ!?」
山田は、ニヤリと笑った。
「四人目ですよ」
「ぐっ・・・」
クロナは肩を抑えた。手の隙間から、血がどくどくと溢れ出す。一瞬で視界がかすみ、意識が混濁した。
(麻酔銃・・・)
この威力とスピードは、ライフルによるものか。
力が抜けて、右手から銃が抜け落ちた。そして、その場に崩れ落ちる。
クロナが気を失ったのを確認した山田は、トランシーバーを取り出した。
「ご苦労さまです」
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「ご苦労さまです」
副班長からの連絡を、狙撃手の二人は300メートル離れた廃ビルから聞いていた。
「・・・、了解」と、右目が隠れるくらいに伸ばした前髪の男が応答する。隈が浮いた左目で、クロナを狙撃したライフル【NIGHT・BREAKER】をうっとりと眺めた。
彼の名前は、椿班三席【八坂銀二】。
「やはり、ライフルが最強の武器だな・・・」
「こらぁ! 最強は弓矢っス!!」
自分の武器に酔いしれている男の頭を、お団子ヘアの女子が叩いた。身長は150センチ程で、下手すれば小学生に間違えられかねない体躯だ。
彼女の名前は、椿班四席【矢島真子】。
彼女は、襲撃に使った弓矢、【天照】を八坂に見せつけた。
「相手の三席さんが、ライフルの射程に入ったのは、私のおかげっスよ!!」
「ハイハイ・・・、ありがとうございました・・・」
「感謝がこもってないっス!!」
適当に返事する八坂に、矢島は憤慨した。
「てゆーか、早く帰っていい? 新しいザバゲやりたいのよ・・・」
「ダメっすよ。まだ鉄平さんの目的を達成してないっス」
「目的?」
八坂はライフルから目を離し、首だけで振り向いた。
「なんの?」
「忘れたんすか? 『死神をおびき寄せる』って・・・」
第19話に続く
武器図鑑
椿班
班長 堂島鉄平【鉄棍】・・・ただの鉄パイプ。
副班長 山田豪鬼 【不明】
三席 八坂銀二 【NIGHT・BREAKER】・・・ライフル。夜でもバッチリ見える。
四席 矢島真子 【天照】・・・撃つと、鏃に炎が出る。通常の矢も放てる。
次回19話「架陰VS鉄平」




