架陰VS鬼丸 再戦 その②
悪魔の羽化を見たことがあるか?
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「おおおりゃあああああああッ!」
全力で、鬼丸の刀のガードに、魔影拳をねじ込む架陰。
コンクリートをも粉々に砕く一撃だと言うのに、鬼丸の刀はびくともしない。
「くそ…! 硬い!」
「この私の刀を、甘く見ないことだな…」
鬼丸は両腕を使って、架陰の攻撃を押し返した。
空中に放り出される架陰。
視線は鬼丸から外さず、すぐさま体勢を整える。
鬼丸が刀を逆手に持ち替えて、ドンッ! と、粉々に砕けた地面を踏み込んだ。
ぶわっと、波のような殺気が架陰に押し寄せた。
「また来る!」
先ほど、架陰に大ダメージを与えたあの攻撃。
とてつもなく広い攻撃範囲に、内臓を内側から圧迫するような衝撃波。
「【鬼乃坂月】!」
地面を擦り、天を突くように刀を切り上げた。
その瞬間、鬼丸の刀から、赤みがかった衝撃波が放たれ、空中の架陰に迫った。
「二度は、喰らわない!」
攻撃範囲が広いために、完全に躱すことは不可能。
空中で上手く身動きが取れない架陰がすべきは、この一撃を相殺することだった。
「振り絞れええええええええッ!」
魔影を纏わせた刀を、衝撃波の中心地に狙いを定めて一閃した。
「【悪魔大翼】ッッ!」
黒い斬撃が、空気を鳴らしながら放たれる。
そして、迫りくる赫赫とした衝撃波に激突した。
衝撃と衝撃。
二つの高エネルギーが衝突した瞬間、辺り一体に爆風が吹き付けた。
「くっ!」
吹き飛ばされそうになった架陰は、脚の魔影で上手く軌道を修正してその場に留まった。
パンッ!
と風船でも割れるかのような音が響いたと思うと、衝撃波は跡形も無く相殺された。
「よっしゃ!」
と、思ったのも束の間。
鬼丸がさらに、刀を一閃したのだ。
今度は、手首のスナップを利用した、俊敏かつ豪快な一撃。
「【鬼々爪乃吐息】!」
ヒュンッ!
と空気が静かに鳴いたと思った瞬間、架陰の右肩に、銃に撃ち抜かれたかのような激痛が走った。
「くっ!」
見れば、肉に穴が空いて血が吹き出していた。
血を抑えながら、地面に着地。
ぐらっと身体が揺れるのに耐えて、鬼丸を睨んだ。
「射程範囲を絞った! 高密度の斬撃か!」
「ご名答!」
鬼丸は、振り切った刀を腰の鞘に戻す拍子に、さらに一閃した。
「【鬼々爪乃吐息】ッ!」
まるで空間をワープしてくるように、超高速で、貫通に重きを置いた攻撃が架陰に迫った。
「くそ!」
すんでのところで、架陰は上体をのけ反らせてそれを躱す。
腹筋の反動をつかって身体を起こした瞬間、間を詰めた鬼丸がすぐそこにまで攻めてきていた。
「っ!」
ギンッ!
刃と刃がぶつかり合う。
架陰は刃に魔影を走らせると、爆発するような衝撃波を放って、鬼丸の刀を弾いた。
ぐらっと、鬼丸がよろめいた拍子に、彼の懐に潜り込む。
刀の柄を腹に押し当て、魔影を炸裂させた。
ドンッ!
と、腹に衝撃波を放たれた鬼丸が半歩後ずさる。
「なかなか、いい身のこなしだ」
「あれで吹き飛ばないのかよ!」
不意を突いた攻撃だったのに、完全に勢いを殺された。
だが、これで心が折れる架陰ではない。
「まだまだだ!」
魔影を再展開すると、鬼丸に襲い掛かる。
(集中しろ…!)
集中だ。
架陰の前の前に立ち塞がる鬼丸を倒して、その背後に控える、【王】がカレンの悪魔を完全に吸収する前に、悪魔を奪い返す。
だが、今は目の前の鬼丸に集中しなければならない。
(より強力に!)
鬼丸の斬撃を押し返し、黒い斬撃を放つ。
(より正確に!)
斬撃は、鬼丸の首筋を正確に狙った。
(己の、『勝利への欲望』を、余すこと無く…!)
鬼丸は咄嗟に首を守る。
(体現しろ!)
だが、防御の展開が間に合わなかった。
バチンッ!
と、斬撃が鬼丸を拭き飛ばす。
鬼丸が吹き飛んだ勢いに合わせて、架陰も魔影脚で地面を蹴って身体を打ち上げた。
「お前に勝つ!」
拳に魔影を纏わせて、未だ体勢を整えることができぬまま吹き飛ぶ鬼丸の腹に。
「叩き込む!」
拳が、彼の腹にめり込んだ。
初めて、まともに攻撃が命中した瞬間だった。
「おりゃあ!」
「くっ!」
鬼丸の澄ました顔が苦痛に歪んだ。
守る隙も、反撃する隙も与えない。
今ここでやるつもりで、さらに腕をねじ込む。
「はあッ!」
その③に続く




