激戦開幕 その③
血の滴る戦国の世にて
おおいぬのふぐりを傍らに
3
「おいおい、始まっちゃったよ」
強襲してきた悪魔の堕彗児の鬼丸と、架陰の戦いを見ながら、響也は苦笑を浮かべた。
悪魔の堕彗児は、全てこの時を狙っていたのだと理解した。
カレンの暴走により、仲間同士で戦い合わせて、お互いが消耗するのを今か今かと待っていたのだ。
「まあ、そりゃ、そうなるよな」
激しい剣戟を繰り広げる架陰と鬼丸を横目に、響也は倒れているカレンを抱きかかえた。
「おい、カレン、しっかりしろ」
カレンは目を閉じているが、息はしっかりとしていた。
命に別条はないと信じたい。
「クロナ!」
「はい、なんでしょう!」
「カレンを頼む!」
「ええ?」
名を呼ばれたクロナは、目を丸くした。
「何言っているんですか? まさか、へんなこと考えているんじゃないでしょうね!」
「おお、よくわかったな。そのまさかだ」
響也は、架陰の援護をするつもりでいた。
ここで会ったが百年目。
響也と鬼丸が初めて刃を合わせた時、彼女は鬼丸に手も足も出すことができなかった。
その時のリベンジを、今ここでするつもりだったのだ。
「私は、架陰の援護をする。クロナ、お前はカレンと、他の班と一緒にここを撤退しろ」
「でも…」
「私は大丈夫だ」
そう言って、歯を見せてにいっと笑った響也は、抱いていたカレンをクロナに預けた。
さあ、荷物は無くなった。
これで、鬼丸に集中することができる。
そう響也が振り返った瞬間、架陰が叫んだ。
「二人とも! カレンさんを連れて逃げてください!」
鬼丸と刃を合わせながら、二人に指示した。
「鬼丸は、僕が必ず仕留めます! 二人は、カレンさんと、他のUМAハンターの保護を優先してください!」
響也は出鼻をくじかれた気分だった。
「おいおい、言ってくれるじゃないか」
「早く!」
戦いながら、懇願するような目を、響也に向けた。
もう一度「お願いします!」と叫ぶ。
これには、響也も引き下がるしかなかった。
「くそ、気に入らない後輩だよ。私にも出番を譲れっての」
再び、クロナの方を振り返ると、カレンを奪い、肩に担いだ。
「クロナ、行くぞ、この町から脱出する」
「でも、架陰は?」
「あいつにはこのくらいが丁度いい」
ボコンッ!
と、激しい音と共に、すぐそばのビルが崩れた。
架陰と鬼丸が駆け抜けた場所のアスファルトが板チョコのように砕けている。
「あいつの戦いに、私たちは邪魔だとよ?」
「そんなあ」
「とにかく、行くか」
去り際に、響也は架陰に向かって叫んだ。
「鬼丸の相手はお前に任せた! だが、大見え切ったんだ! 必ず仕留めろよ!」
「わかってますって!」
架陰が反応したのを確認して、響也はカレンを担ぎ、クロナと共に走り始めた。
その瞬間、ビルの屋上から、悪魔の堕彗児の一人である【笹倉】が飛び降りてきた。
「逃がさねえ!」
空中で、名刀【雷光丸】を振る笹倉。
眩い雷撃が放たれて、走るクロナと響也に迫った。
「しまった!」
注意が散漫になっていた二人は、回避が間に合わない。
次の瞬間、少し離れた地点で、椿班の真子が矢を射った。
「名弓! 【天照】!!」
炎を纏った矢が飛来して、雷撃を消し飛ばした。
「っ! あの女! またオレたちの邪魔を!」
真子の矢だけではない。隣に控えていた八坂が、ライフルを引き金を引いて、威嚇射撃をした。
「くそが!」
笹倉は背中に蝙蝠のような翼を生やして、空中で軌道を修正して、弾丸を躱した。
その隙に、真子が二人を呼ぶ。
「クロナ姐さん! 響也姐さん! 撤退ッス!」
「わかっているわ!」
走る。
途中、クロナは首だけで振り返り、鬼丸と戦う架陰を見た。
(絶対に、戻ってきなさいよ…)
※
「面白い、仲間の力を頼らず、単騎で決着をつけるか」
仲間の助けを借りなかった架陰を見て、鬼丸は背筋の辺りにぞくぞくするものを感じた。
「ならば、己の力のみで、この鬼丸を倒してみろ、悪魔の器よ!」
「やってやるさ!」
二人は刃をぶつけ合った。
ギンッ!
と、身を裂くような金属音が四方八方に弾けて、二人の鼓膜を揺らす。
ギリギリと刃が擦れる。
飢えた獣のように、睨み合った。
先に動いたのは鬼丸だった。
地面を強く踏みしめて、架陰を吹き飛ばす。
「見せてみろ! 市原架陰!」
「見せてやる!」
全力で鬼丸を仕留める。
その気概で、架陰は能力を発動した。
「魔影! 【肆式】ッ!」
第134話に続く
第134話に続く




