【第133話】 激戦開幕 その①
至高こそ戦い
戦いこそ至高
刃こそ我が身であり
我が身は刃となる
1
「よかった、本当に、よかった…」
架陰は、暴走していたカレンが元に戻ったことを涙ながらに喜んでいた。
「本当に、一時はどうなるかと思いました」
「ごめんね」
カレンはいつものように、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
しかし、カレンが元に戻り、悪魔の堕彗児から奪還舌とは言え、まだ桜班、椿班、薔薇班にはするべきことがあった。
「それにしても…」
クロナは頬にじとっとした汗をかきながら辺りを見渡した。
「さっきまでいた、悪魔の堕彗児は何処に行ったんでしょう?」
逃げた。というわけではないようだ。
地面を見れば、悪魔の堕彗児の一人である蜻蛉の【陽炎】の能力によって発生した肉塊がこびり付いている。
蜻蛉はこの能力の射程距離を「半径一キロ」と説明した。
つまり、まだ半径一キロ以内に、敵が潜んでいるということだった。
「一体、何処に…?」
架陰も、クロナに吊られて辺りを見渡した。
その時だ。
ボコリと、足元の肉塊が動く。
「はっ!」
下から突き上げてくるような感覚に、慌ててその場から飛びのこうとする。
しかし、それよりも先に、地面の肉は柱のような形となり、架陰を吹き飛ばした。
「架陰!」
クロナがすぐに援護に向かおうとするが、彼女の足元からも肉の柱が突き出して、吹き飛ばした。
響也も同じだった。
カレンを除いた、架陰、クロナ、響也の三人がほぼ同時に飛ばされた。
「まさか!」
その場に残されたカレンは、茫然と立ち尽くす。
その瞬間、地面から肉の壁がせり上がり、カレンの四方八方を取り囲んだ。
(幽閉された…?)
空から、三人の人影が降ってきて、カレンの前に音も無く着地した。
一人は、武士の着物を身に纏った【鬼丸】。
もう一人は、女子高生の制服を着こなした【蜻蛉】。
そして、あと一人は、身体中に包帯を巻いて、鼻を突くような臭いを漂わせる男だった。
「悪魔の…」
「時は満ちた」
鬼丸の細い目の奥で、金色の眼球がギラリと光った。
腰の刀に手を当てて、目にも止まらぬ速さで抜刀する。
その瞬間、カレンの両足の腱がパックリと裂けた。
「あ…」
脚に力が入らず、カレンはその場に膝まづいた。
すかさず、蜻蛉が肉片を操り、カレンの両四肢を拘束する。
「動かないでくださいね。これから、楽しいことが起こりますから」
「何を…!」
困惑するカレンの顔に、包帯男の焼けただれた手が伸びた。
拒む隙すら与えず、包帯男が彼女の顔面を鷲掴みにする。
「アア、ヤット、コノ時ガ、来タヨ…」
※
「どういうことだ!」
肉片に吹き飛ばされた架陰、クロナ、響也たちは、すぐに体勢を立て直して、着地した。
「カレンさんだけが! 肉片の壁に閉じ込められた…?」
すると、架陰の頭の中で悪魔が叫んだ。
(何トシテモ、アイツラヲ止メロ!)
「え…」
(ハヤクッ!)
「ああ、もう!」
言われるがまま、架陰は腰の刀を抜いた。
能力を発動して、白銀の刃に、漆黒のオーラを付与する。
「ちょっと! 架陰! 中にはカレンさんがいるのよ?」
クロナが慌てて制止を求めたが、本能的に危険であることを悟った架陰は、多少強引な手段にでた。
「肉壁だけを! 破壊する!」
黒いオーラを纏った刀を、虚空の先の肉壁に向かって振り下ろした。
「【悪魔大翼】ッッ!」
刃から、三日月の形をした斬撃が放たれ、地面に亀裂を走らせながら肉壁に迫った。
直撃。
そして、肉壁が吹き飛んだ。
飛び散る肉片、舞い上がる土煙。
そして、その奥から現れたのは、鬼丸と、蜻蛉、そして、彼らが【王】と崇める、包帯男だった。
「あいつは!」
「ヤア、ヒサシブリダネ」
包帯男は、あの時のように、しゃがれた声で気さくに架陰に手を振った。
三人の足元には、腱を切られて脚から血を流すカレンが倒れていた。
「カレンさん…!」
「悪いな、市原架陰…」
鬼丸が一瞬で架陰との間を詰めて、彼に向かって刀を振り下ろした。
ギンッ!
「くっ!」
「UМAハンターたちは、ここで仕留めさせてもらう!」
その②続く




