カレン その②
泥に埋もれる花に紅を差し
月光の名のもとに枯れゆく朝露を
刹那夢見し山茶花の里
2
そして、今に至る。
腹の傷が塞がり、万全とまでは行かなくとも、動けるようになった架陰は、強い眼差しでカレンを見据えた。
「カレンさん、今、助けますからね…!」
その言葉は、カレンに届いていただろうか?
彼女はすっと腕を上げると、糸が切れた人形のように、その腕をカクンッ! と振り下ろした。
空間に出現する黒い茨。
硬質で、表面には身を裂く棘が大量に生えている。
それは、一匹の大蛇のようにうねり、伸縮し、架陰とクロナに迫った。
「二人で止めましょう!」
「わかっているっつーの!」
架陰が刀を中段に構える。
クロナは下段に。
そして、二人同時に、刃を迫りくる茨に向かって一閃した。
「【悪魔大翼】ッッ!!」
「【明鳥黒破斬】ッッ!!」
黒い斬撃。
黒い数百もの羽が、一斉に茨に向かって放たれる。
バチンッッ!
と、空間が裂けるような爆音と共に、辺りに黒い衝撃波が走った。
地面が割れ、土煙が沸き立ち、クロナ、架陰の着物の羽織を揺らした。
クロナは着物の袖で目元を覆った。
「なんて威力!」
力と力の衝突。
相殺のしあいっこ。
打ち勝ったのは……。
「クロナさん!」
架陰がクロナの着物の首根っこを掴む。足に魔影を纏わせて、強化した脚力で、一気に上空まで跳び上がった。
「二人の攻撃が、押し負けた…!」
打ち勝ったのは、カレンの【茨】の攻撃の方だった。
カレンは消えずに残った茨を操作すると、空中に離脱した架陰を襲わせた。
身動きが制限される空中にいる架陰とクロナに茨が迫る。
「何の!」
架陰は足に纏わせた魔影を上手く炸裂させて軌道を修正すると、茨の攻撃をかいくぐった。
「ナイス! 架陰!」
「それほどでもないですよ!」
クロナを抱えたまま地面に降り立つと、姿勢を低くして、足の魔影を炸裂させる。
二人の身体は一気に加速して、カレンの間合いに入り込んだ。
「クロナさん! 一気に叩きますよ!」
「わかってるって!」
架陰が、刀の嶺の部分を反対にして握りなおした。
「必ず、五体満足で連れて帰る!」
その一心で、彼女の腹に向かって刀の峰を叩き込んだ。
ガキンッ!
硬い感触。指が痺れる。
「あ!」
腹に叩き込んだはずの架陰の刀だったが、カレンは腹の辺りに茨を出現させて、自身の身体を覆っていたのだ。
つまり、茨で作り上げた装甲。
「硬い…!」
「架陰! 気を付けて!」
気を引き締めるよりも先に、閉じていた茨が開くことによるカウンターが、二人を直撃した。
「ぐああああ!」
「きゃああっ!」
吹き飛ばされた二人は、受け身も取ることができないまま、地面を激しく転がった。
追撃が来るといけないので、すぐに手をついて立ち上がる。
だが、それよりも先に、カレンが茨の攻撃を二人に向かって放っていた。
「一の技! 【命刈り】ッッ!」
ビルの隙間から、心強い声が聞こえ、白銀の斬撃が飛び出してきた。
斬撃は茨を切り裂き、架陰とクロナを救った。勢いは止まらず、その奥のビルの壁に直撃し、大きな亀裂を走らせた。
「響也さん!」
「すまない! 待たせたな!」
傷を全快させた響也が力強い目つきで路地から走って出てきたのだ。
桜班・班長【鈴白響也】。
桜班・副班長【城之内カレン】。
桜班・三席【雨宮クロナ】。
桜班・下っ端【市原架陰】。
UМAとの激闘を通して絆を深めてきた四人が、戦場に集結する。
響也は、いつものエナジードリンクを飲み過ぎて隈の浮いた目でカレンを一瞥すると、右手に握った武器を慣れた手つきで回転させた。
「さあて! カレンを助けるぞ!」
「「了解!!」」
カレンを救い出す。
この三人で。
その③に続く




