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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
433/530

伝わる声 その②

もしもし


もうします


まうすまうせよ


もしものましか

2


「いい加減目を覚ましてくださいよ!」


カレンを呼ぶクロナの声が、闇の中に響いた。


暗闇の中にぷかぷかと浮かんだカレンは、それを黙って聞いた。


クロナが呼んでいる。


行かないと。


そう思うのに、腕が動かない。動きたくなかった。


カレンの傍に、悪魔が寄ってきて、にやっと笑うように言った。


「あなたのお仲間が呼んでいるわよ」


「うん、わかっている」


「行かなくてもいいのかしら?」


「行きたくないの…」


悪魔の嘘をまだ鵜呑みにしていたカレンは、自分が戻っても意味が無いと考えていた。


人を殺した。人を傷つけた。


人に、嘘をついた。


「私は城之内カレンじゃない…、城之内紅愛だから…」


架陰はカレンのことを尊敬し、慕ってくれた。だが、崇拝の対象はあくまでカレンだった。紅愛じゃない。


響也は、夜を放浪していたカレンに手を差し伸べてくれた。今の今まで、一緒に生きてくれた。だが、響也が愛してくれたのは、カレンだ。紅愛じゃない。


この嘘がばれた今、現実世界に戻ったとしても、誰も喜ばない。


「もういいの、クロナ…」


殺して。


そう呟いた。


「私はもういいの。殺して。もう、生きたくないの。殺して」














「カレンさん!」


クロナは何度も彼女の名前を呼び続けた。


だが、喉を絞って放った言葉さえも、彼女には届かない。


何かを振り払うように、何かを殺すように、何かを憎むように、髪の毛を振り乱して腕を振った。


たちまち、四方八方に黒い茨が出現し、カレンを取り囲むUМAハンターたちを吹き飛ばした。


「くっ!」


唯一その攻撃を回避したクロナは、奥歯を噛み締めて、振り返る。


「無理なの…?」


六人がかりでも、カレンを止めることができない。


見れば、鉄平も、真子も、八坂も。そして、屋上で援護攻撃をしていた斎藤や桐谷も、カレンの攻撃を前に、地に伏していた。


(やっぱり、四方八方から襲ってくるカレンさんの攻撃は、並大抵の機動力が無ければ防ぐことは不可能…!)


クロナがここまで倒れずに残っているのは、背中に生えた黒い翼のおかげだった。これを羽ばたかせることで、ある程度の攻撃は回避することができた。


(架陰も響也さんもやられた今、主戦力は私!)


そう自分に言い聞かせると、クロナは翼を羽ばたかせて、急降下した。


地面とすれすれで飛行し、カレンへと突っ込んでいく。


(お願い! カレンさん!)


カレンはすかさず、能力を発動。


クロナの目の前に、茨が張り巡らされて行く手を阻んだ。


「茨の結界!」


思わず、クロナの身体が硬直する。


茨にこのまま突っ込めば、身体が傷つくことは不可避。


だけど、カレンに接近できない以上、彼女のことを止めることはできない。


他の者がやられた今、それができるのは、クロナだけだった。


「ああ! もう!」


クロナはやけになって叫んだ。


「覚悟決めろ! この馬鹿!」


腕にぐっと力を込める。


歯を食いしばる。


握っていた刀を前方に突き出し、スピードを上げて、茨に突っ込んでいいった。


「おらあッ!」


刃が茨を切り裂く。


茨が、クロナを切り裂く。


肩や腕、脚に赤い線が走り、鮮血が引き出す。


焼けるような痛みに耐えて、クロナは突き進んだ。


「おおおりゃあああああ!」


必要なのは勇気。


腕が飛ぼうが、脚が飛ぼうが。


(カレンさんは辛い目に遭ってきたんだ! だったら、私も! 私たちも、このくらいの苦しみに耐えなきゃ! 行動に説得力を持たないでしょうが!)


茨を突き抜けるクロナ。


「カレンさん!」


足の先から頭の先までを、血で真っ赤にして叫んだ。


「帰りますよ!」


その言葉に、カレンの動きが一瞬、鈍くなった気がした。


クロナは鞘に刀を納めると、拳を握った。


「私たちの桜班に!」


拳を、カレンの脳天目掛けて振り下ろした。


ゴツン!


と、鈍い音が響き、カレンの頭ががくっと下がる。


(どうだ…?)


脳震盪を狙った一撃。


だが、カレンはすぐに体勢を立て直して、顔を上げた。


「私は城之内カレン…」


そう言うやいなや、茨を発生させて、クロナの肩を穿った。


「くっ!」


細い茨に肩を貫かれたクロナは、そのまま間合いから飛ばされて、ビルの壁に叩きつけられた。


「くうっ!」


失敗。

 

カレンは拳を握って茨を操作すると、さらにクロナの傷にねじ込んできた。


「あ! ああ…、ああ!」


肉を抉られる激痛がクロナを襲う。


肩から血が噴出して、彼女の腕を伝った。


「カレンさん、カレンさん…、もう」


「私は城之内カレン…」





その③に続く






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