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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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薔薇一輪 その②

拾い上げた薔薇の


蟻ども群がる様に


蜜蜂はそっぽ向き


楡の鏃に爪を灯す


紅愛、いや、カレンには嫌いなものがある。


それが「幸せ」だった。


幸福と不幸はプラスマイナスゼロ。


幸福があれば、不幸があり。


不幸があれば、幸福がある。

 

欲しいのは「幸福な日々」だけれど、その日々を選べば、必ず「不幸な日々」がついてまわる。


カレンは、幼い頃に、地獄のような日々を、身体に烙印を押すように経験してきた。


父親に見捨てられ、城之内家にはいない存在とされた。


地下牢に閉じ込められ、養子として引き取る者を待つ日々。


何度石壁に爪を掻き立てても、誰も助けに来ることは無く、何度叫んでも、その声が地上に届くことは無かった。


空腹。


孤独。


苦痛。


地上の光が届かない、黴臭いあの地下牢の中で、彼女の中に芽生えた狂気は、少しずつ成長していった。


不幸が嫌いだ。


だけど、私は不幸だ。


その事実を塗りつぶすかのように、紅愛は「思い込み」を始めるようになった。


私は不幸じゃない。


私は幸福だ。


私は不幸の城之内紅愛じゃない。


私は城之内カレンだ。


自分に嘘をつき、嘘を嘘で塗り固め、本当の自分を消し去った。


不幸は嫌いだ。


幸福が好きだ。


だけど、幸福は毎日続くわけじゃない。毎日、誕生日とか、バレンタインとか、クリスマスがないことと同じだ。


幸福は特別だからこそ意味を成す。稀にあるからこそ特別なのだ。だから、幸福が身に降り注いだ次の日は、平凡な日々か、不幸の日々が待っている。


幸福と不幸のギャップに打ちひしがれるくらいなら、彼女は不幸のままを好んだ。


最低のままを、好んだのだ。


だって、最低なんだ。最も、低いんだ。これ以上下がることは無い。


だから、カレンの嘘が剥がれたならば、これ以上あがく必要は無かった。


「私を、殺して…」



ただ、諦めるだけだった。



    












「私を、殺して…」


カレンがぼそっと言った。


その言葉を聞いた瞬間、対峙していたクロナの背筋がすっと寒くなった。


確かめるように言う。


「カレンさん…、今、なんて言いました?」


「私を…、殺して…」


クロナの質問に、カレンが答える。


腕を振った瞬間、虚空に茨が出現し、クロナを薙ぎ払った。


「ぐっ!」


自分のことを「殺せ」と言う割には、殺意の籠った一撃だった。


吹き飛ばされたクロナは、体勢を整えて着地。


すかさず、クロナを援護するように、椿班【堂島鉄平】、椿班【矢島真子】、椿【八坂銀二】が取り囲んだ。


「クロナ姐さん! 無理すんなよ! 仲間だろ?」


「ええ、わかってる」


クロナは口元を伝う血を拭った。


(くそ…、やっぱり、動きが鈍くなってる…)


刀を握る指が震えていた。


目の前に立ち塞がるのは、クロナの慕うべき先輩の、【城之内カレン】。


彼女は悪魔に操られ、意識を失っている。


もうすでに、三人ものハンターがやられた。これ以上被害を出す前に、彼女を止めなければならない。


だが、上手く身体が動かなかった。


おそらく、先にやられた架陰や響也。西原も同じだろう。


慕う相手に攻撃を受けたが、個人の感情が先行して動くことができなかった。


それをわかっていても、クロナの動きはぎこちなかった。


クロナだけはない。


ここに集まった、椿班の三人。そして、側面のビルの屋上から見下ろしている薔薇班の二人。


例え、管轄地域は違い所属する班も違うが、一度は任務を共にした仲だ。


全員、彼女に上手く手出しをすることができていない。


それは、薔薇班の二人が顕著に現れていた。


薔薇班副班長【斎藤】。


薔薇班三席【桐谷】。


「なあ、斎藤さん…!」


「なんだ、桐谷?」


「あの女…」


「ああ、わかっている」


斎藤は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「あの女性は、紅愛さまだ」


「……」


「私が城之内家に仕え始めた頃、一度だけ、幼き花蓮さまと遊んでいた少女を見たことがある。顔も背丈も似ていて、双子だという察しはついていたが…、いつの間にかいなくなっていたんだ」


斎藤はそれから、眼下のアスファルトに倒れこんでいる西原に目を向けた。


「なるほどな…、西原さんが隠していたことは、このことだったのか…!」


斎藤はタキシードの内ポケットに手を入れると、黒い筒を取り出した。


「桐谷、紅愛さまを止めるぞ」


「それはわかっているが…」


「あの人は、城之内家の人間だ」


「捨てられたんだろ?」


「捨てられたんだろうな」


斎藤も、城之内家の当主の横暴さは知っていた。


だからこそ、そんな理不尽な扱いを受けて見捨てられた紅愛を放っておくことはできなかった。


「行くぞ。薔薇班の人間として、何としても、紅愛さまを止める」









その③に続く





その③に続く

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