表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
426/530

【第127話】 神のみぞ知る その①

神さまの日記に書き記す


天使の朝食と


悪魔のショルダーバッグを


迫りくる西原に、城之内カレンは茨を槍のようにして放った。


すかさず結界を張って防ぐ。


しかし、茨が直撃した瞬間、結界に蜘蛛の巣のような亀裂が走った。


「っ!」


バリンッ!


と、結界が砕け散る。


結界を突き破った茨は、勢いを殺すことなく、西原の腹に直撃した。


「がはっ!」


西原の腹から背中に掛けて、黒い茨が一直線に連なる。


「西原!」


「西原さん!」


彼の腹を貫通した茨は、空気に溶け込むようにして消滅した。


栓が無くなった瞬間、西原の腹の穴から赤黒い血が吹き出す。


身体中を繋いでいた糸が切れるように、西原から力が抜ける。踏みとどまることもできないまま、前のめりになって倒れこんだ。


「西原さん…」


血が地面に広がっていくのがわかった。


架陰たちを護っていた結界が消え去る。


(まずい…、西原さんの能力が解除された…!)


架陰は一瞬で判断を下すと、刀を拾い上げて、カレンに向かって斬り込んだ。


「カレンさん!」


カレンに刀を振り下ろす。


(絶対に止める!)


殺しはしない。だが、「半殺し」にしなければ、この暴走は止められないと判断した。


(これ以上犠牲は出さない!)


だが、直前で躊躇する。


腕がびくっと痙攣して、刃の軌道が逸れた。


刀の切っ先が空を斬る。


(しまった! 空振り…!)


その隙を、カレンは見逃さなかった。


蠅を払うかのように腕を振ると、架陰の右側から茨が出現して、彼を吹き飛ばす。


防ぐことができなかった架陰は、背中からビルの自動扉にガラスに突っ込んだ。


ガシャンッ!


と透明のガラスが粉々に砕け散り、その破片が、架陰の背中に突き刺さる。


「はあ、はあ、はあ…」


激痛に耐えながら、架陰は再び立った。


「くそ…、だめだ…! 斬れない…! 倒せない…! 止められない…!」


先ほどの一撃で、また骨が数本折れた。痛みは、悪魔とジョセフが緩和しているので、大した痛みではない。問題は、この出血だ。


(まずい…、血を流し過ぎた…)


地面が沼に変わったかのように、足元がおぼつかない。


そう思った傍から、視界が揺れる。


はっとした時にはもう遅く、カレンの放った茨が、腹に直撃していた。


「ぐっ!」


咄嗟に、魔影を腹に集中させて、威力を軽減する。


だが、踏ん張ることができず、そのまま、ビルの内部に押し込まれた。


ドンッ!


壁にめり込む。


パキッ! と乾いた音が響き、あばらがまた、数本折れた。


「あ、ああ、、あああ…」

 

その数本が肺に突き刺さり、息が詰まる。


「あ、ああ…、ああ…」


喉の奥から、どろっとした血が流れ落ちた。


(まずい…、意識が飛ぶ…!)


頭の奥で、腕をちぎられて倒れていた響也の姿がフラッシュバックした。


鈴白響也は、桜班の班長。つまり桜班で一番強い女。そんな彼女が、ああも簡単にやられたのだ。


交差点の真ん中で、血まみれになって倒れていた彼女を見て、暴走した城之内カレンの強さは、単に能力だけではないのだと常々思った。


傷つけられないじゃないか。


例え悪魔に身体を奪われていても、その姿は、優しい城之内カレンそのまま。


そして、彼女が悪魔に乗っ取られる経緯となったのが、親による選別だなんて知らされたらなおさらだ。


「攻撃…、できないよ…」


茨の攻撃から、悲しみと憎しみが一緒にやってきて、架陰の身体を焼くようだった。


「わかりましたよ…、あなたが、悲しい目にあってきたことは…!」


茨が飛んできた。


もう躱すことができなかった。


「っ!」


架陰の腹を、黒い茨が突き抜ける。


腹に茨が刺さった状態で、架陰は続けた。


「悲しいんですよね…! 泣きたいんですよね…!」


痛みとともに流れ込んでくる、カレンの悲しみ、怒り、憎しみ、恐怖。


「ごめんなさい…、カレンさん…」


思い出すのは、初めて出会った時のこと。


架陰はまだUМAハンターになったばかりで、右も左もわからず、目的地もわからぬまま奔走していた。


あの日、あの、大雨の日。一緒に、鬼蛙と戦った日。


カレンは、架陰に強さを教えてくれた。戦い方を教えてくれた。


「僕…、あなたのことを、尊敬しています…、大好きです…、優しくて…、ほんわかとしていて…、でも、しっかりしていて…、響也さんのエナドリの飲みすぎを再三注意していて…!」


腹を貫通した茨が消え失せた。


途端に、腹の傷から血がどろどろと流れ落ちる。


「あなたのことを…、【完璧な人間】だと、勘違いしていましたよ…」


自嘲気味に笑うと、その場に膝を着いた。


「でも、よかった…、あなたが、弱さを抱えた人で…」


意識が薄れる。それを気合だけで繋ぎとめると、カレンに言った。


「戻ってきてください…、カレンさん…、みんな、待っていますから…」


それが、架陰の限界だった。


その言葉を絞り出したあと、彼は意識を失い、その場に倒れこんだ。









その②に続く

捕捉


架陰とカレンの最初の出会いは、雨の日の『鬼蛙討伐任務』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ