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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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番外編【城之内花蓮外伝】

産み堕とされて


双極と成す

城之内花蓮外伝


城之内家は、江戸時代から伝わる由緒正しき家だ。明治には貿易で富を成し、未確認生物の退治を生業としながら、戦後は製菓で今日までその名を残してきた。


感嘆に言えば「お金持ち」。


だけど、お金持ちの家系には「裏」と言うものはつきもので、こんな名家になり上がるために、かなりの黒いことをしてきたと聞く。


以前、父上が言ったことを思い出した。






「いつの時代も、当主は一人だ」







と。


その意味が、私にはわからなかった。


当然の事だろう?


私は「城之内花蓮」。薔薇班の班長だ。


私は、二十歳になれば誰かを婿として迎えて、城之内家の当主になる。そして、大好きな仲間と一緒に、昼下がりを微睡むような、おだやかな気持ちで歳を重ねて行くのだと思っていた。


私が望まなくとも、その道が、目の前に現れて、白い光で照らされているのだ。


私はこのままでいい。


私は薔薇班の班長として、これからもUМAと戦って、自分が自分を誇ることができる日々を送る。


このままでいい。


このままでいいんだ。


そう自分に言い聞かせて、前に踏みだそうとしたとき、私のドレスの裾を、誰かが引っ張った。


私ははっとして振り返る。


暗闇の中に、一人の女の子が立っていて、私のドレスの裾をすさまじい力で掴んでいる。


五歳くらいの小さな女の子が、すっと顔を上げた。その目からは血の涙がぼろぼろと落ちて、白目の部分が全部赤く染め上げられていた。


まるで、下手なホラー映画の演出だ。


女の子は、口角を上げてにまっと笑うと、私にこう言った。


「私は、城之内カレン」




こういう夢を何度も見たことがあった。


私は暗闇の中に立っていて、何かを目指して歩いている。


すると、何処からともなく女の子が現れて、「私は城之内カレン」と連呼しながら、私の足やスカートの裾、袖を掴んで、引き留める。

 

その度に、私はべっとりとし汗をかいて、ベッドから跳ね起きる。隣には、執事の西原が控えていて、私に水を差しだしながら、「嫌な夢を見ましたか?」と言う。


私は「うん、大丈夫」と言いながらも、足はどうしようもなく震えていた。







何かを、忘れている気がする。








そう思うようになったのは、つい最近のことだ。


任務に赴いて、未確認生物と戦っているとき、身体の節々が痺れるように痛んだ。別に大した痛みじゃない。戦いに支障はでない。だけど、その痛みが走るたびに私は何かを思い出そうとしてしまう。


耳に、嫌な音がこびり付いている。


ガリガリガリと、壁を爪でひっかくような音。そして、「ごめんなさい」「生まれてきてごめんなさい」という、女の子の声。


指先がじんじんと痛んだ。


まるで、私の身体が、他の誰かのもののような感覚がしてならなかった。


この感覚に耐え切れなくなった私は、ある日、城之内亭の父上の書斎に侵入して、勘が示すままに調べごとをした。


そして、私には「双子の妹」がいることを知った。


書斎にある家系図にも記されていない、今は幽霊のような存在となった妹。ただ「養子に出された」とだけ書かれていた。


私には妹がいた。


その事実を以てして、城之内家の家系図を見た時、私はとある違和感に気が付いた。


城之内家の当主は、いつの時代も一人。いや、ひとりっ子だった。


生まれたのが男ならば、女を迎えて子供を産ませる。


生まれたのが女ならば、男を迎えて子種を搾取する。


そうやって、一本の糸のように、今日まで子孫を残してきた。


何処にも、姉妹や兄弟、ましてや双子の記述は無かった。


「ああ、そうか」


と、思わず呟いていた。


城之内家に限らず、どの名家も、跡取りを選ぶ際、何かしらのもめ事がある。


城之内家は、そのもめ事を嫌った家系だった。


必要最低限の子供しか産まない。健康に育てば問題無し、跡取りをめぐってのもめ事なんてご法度。


双子何て、もってのほか。


畜生腹。という言葉がある。


一度に複数人を産んだ女性に対して付けられる差別用語だ。


双子は跡取り争いになる。双子は、犬や猫といった畜生と同じ。


だから、忌み嫌われているのだ。


忌み嫌われるが故、何かの災厄を恐れた父上は、私たち双子を選別に掛けた。


私と妹、どちらが優秀なのか。


おしめが取れるのはどちらが早いか。


言葉を覚えるのが早いのはどちらか。


算学ができるのはどちらか。


その度重なる選定の末、選ばれたのは私だ。


私は城之内家の時期当主となり、妹は養子に出されて、この家に元からいない存在となった。


なにせ五歳の頃。


過ごしていた日々の裏でそんな、非人道的なことが行われていたことも知らなかった私は、いつしか、妹のことを忘れていた。


そして、私が見て見ぬふりをした現状が、現実が、今、幾千もの選別に掛けられて、歴史の闇に葬られてきた者たちの怨恨と共に、私の前に現れたのだ。


城之内カレン。


いや、彼女の本名は【城之内紅愛】。


私の、双子の妹…。











私は城之内花蓮。

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