【第124話】 愛しき我が子へ その①
愛しき我が子へ
この道の先が
絶望であらんことを
1
「夜行…、私に協力しろ。この女の暴走を止める」
「止めてどうすんだぁ? お前らの目的のためなら、悪魔を覚醒させて方が好都合だろ?」
「そのつもりだった.......」
鬼丸は唇を湿らせる。
「だが、この女の悪魔.......、我々が思っていた以上に、格上だ.......」
「格上?」
夜行が、壁に磔にされているカレンから目を逸らし、鬼丸の方を向く、
次の瞬間、空間から半透明の茨が飛び出して、夜行に巻きついた。
「なにっ!?」
「夜行!!」
鬼丸は握った刀を高速で振り、夜行に巻きついた茨を細切れにした。
(予備動作無しの、攻撃.......!!)
だが、すぐ様次の茨が虚空から飛び出して、夜行に巻きついた。
そして、彼を締め上げて、潰す。
飛び散った夜行の肉片が、辺りに降り注いだ。
(速い.......、人間とは言え、元UMAハンターの夜行が反応出来なかったか!!)
鬼丸は刀を中段に構え、姿勢を低くしながらカレンへと斬りこんだ。
カレンは「私は城之内カレン!!」と叫ぶ。
まるでその声を合図にするように、空間から茨が飛び出して、鬼丸に迫った。
足元を狙っている。
「させん!!」
鬼丸はふわっと上に飛ぶと、それを躱す。空中で身を捩り、衝撃を緩和させながら着地した。
茨は立て続けに襲ってくる。
「ならば.......」
その全てを、鬼丸は目にも留まらぬ斬撃で切り刻んだ。
(私には及ばない.......、斬撃を使えば切り刻むことができる.......)
斬られた茨は、空気中に溶け込むようにして消滅。やはり、実体を伴うものではないようだ。
「夜行!!」
「なんだ!!」
横を見れば、既に身体を再生した夜行が、全裸の状態で駆けている。
「囮になれ」
「なんでだよ!!」
と、言った傍から、夜行は空間から突如出現した茨に頭を吹き飛ばされた。
(あの棘で切り刻むだけじゃない。威力を乗せて、打撃的な一撃を放つこともできるのか.......!!)
いくら傷つけられても、何度でも再生する夜行の身体の特徴を活かして、城之内カレンの能力について探っていく鬼丸。
(不意を突かれて発動したら厄介だが、対処法も十分に見つけることができるのか.......、注視していれば、おそるるに足らず)
床を踏みしめる。
次々と迫る茨を躱しながら、一気に加速した。
(本体の意識を狩りとる!!)
城之内カレンの攻撃を、着物を翻しながら全て回避した鬼丸は、彼女の懐に潜り込んだ。
(腹を殴る!!)
鳩尾に一撃を当たれば、間違いなく気絶するはずだった。
その瞬間、鬼丸は「殺気」を感じ取り、その場から飛び退いた。
危機回避能力が助力して、一気に城之内カレンの間合いから離脱。
見れば、城之内カレンの背後から数十本の茨が展開していた。
(あの茨で、間合いに入ってきた私を押しつぶす気だったか.......)
鬼丸は刀を握る力を緩めた。
「いつの時代も、人間の魂は分からないものだな.......」
虚空に向かって刀を振る。
白銀の刃から、斬撃が放たれて、城之内カレンに迫った。
(近づけないなら.......、遠くから攻撃するまでだ)
だが、これを読んでいた城之内カレンは、静かに背後の茨を閉じた。
まるで、茨がカレンを飲み込むかのように彼女の身体を覆い尽くす。
斬撃は茨の重厚な防御の前に弾かれた。
(茨を盾代わりに!!)
次の瞬間、鬼丸の脳裏に、女の声が響いた。
「もうやめなさい。愚かな悪魔たちよ」
(頭の中に響いてくる!?)
女の声。
城之内カレンのものではない。さしずめ、城之内カレンにとり憑いている悪魔のものだった。
「貴様.......、悪魔だな.......?」
(そうです。この子の精神に寄生している悪魔です)
静かに下唇を噛む鬼丸。
(もうわかっていると思うが.......、貴様は我らが王に吸収してもらう)
(愚かなことを)
空間から茨が飛び出す。
鬼丸は華麗に躱す。
(悪魔の力は強大です。それを人間が取り込んで、タダで済むと思っているのですか?)
(思っていない.......)
次々と襲いかかってくる茨を、鬼丸は悪魔との会話を成立させながら躱した。
(だが、市原架陰は悪魔を体内に宿しながら、それでも自我を保っている。貴様もおなじだ。城之内カレンの魂に宿っておかながら、城之内カレンは今の今まで自我を保っていた)
(本当に、愚かな子だこと)
空間から茨が伸びてきた。
鬼丸はそれを斬り落とす。
さらに、茨が飛んでくる。
鬼丸は身を反転させて、遠心力の篭った斬撃でそれを斬り飛ばした。
「なんだ.......、この違和感は.......」
(城之内カレンは、私の大切な娘です。傷つけることは許しません)
「傷つけたつもりは無い」
(この子にとって、過去の話をされることが、一番の苦痛なのです)
「だったら尚更だな」
鬼丸は振り向き様に刀を一閃した。
飛んできた斬撃を、城之内カレンは茨を使って防ぐ。
(何人足りとも、この子の眠りを妨げる者は許しません)
(この悪魔…、なんだ?)
(守り神。とでも言いましょうか?)
その②に続く
補足
基本的に、悪魔には悪いやつしかいません。つまり、城之内カレンの悪魔も悪いやつです。市原架陰の悪魔も悪いやつです。




