【第123話】 化けの皮がはげる時 そのⅠ
化けの皮剥いで
真っ赤っか
1
時間は、三十分程遡る。
「おい、起きろ.......」
男の声がして、城之内カレンは泥のような眠りから目を覚ました。
喉がカラカラに乾いている。脱水症状からか、頭が割れるように痛かった。
「…、ここは.......」
視界がはっきりとしてきて、城之内カレンはようやく自分のいる場所がどこであるか、そして、何をされているのかを理解した。
「なんで.......」
城之内カレンは、両手足を縛られ、何も無い無機質な部屋の壁に磔にされていた。
強く縛られているせいで、手首、足首から先の感覚が無かった。
前方に目を向けると、着物姿の男が立っていた。
(この人は.......、響也の報告にあった、【鬼丸】っていう.......)
「まずは、初めましてだな.......」
鬼丸は顎に手をやって、静かに言った。
「私の名前は、悪魔の堕慧児の一人、【鬼丸】だ.......。王の補佐をしている」
それから、「まあ、分からないかもしれないが」と付け加える。
城之内カレンは、頭痛に耐えながら、自分の身に起こったことを整理した。
確か.......、街に出現したUMAの調査をしに、市原架陰と共に出動して.......、そこで、悪魔の堕慧児の【笹倉】と【唐草】の襲撃を受けた。
唐草の攻撃を受けて、城之内カレンは気絶。
そして、こうやって拘束されているというわけだ。
「私を、どうするつもりなの?」
「..............」
城之内カレンが聞いても、鬼丸は黙ったままだった。
「ねえ、答えてよ.......」
「なるほどな.......」
顎に手をやり、何やら一人で合点する鬼丸。
こくこくと頷いた拍子に、彼の頭の後ろで結った髪の毛が揺れた。
「少し、不思議な話を聞いた.......」
唐突に何かを語り始める鬼丸。
「我々悪魔の堕慧児の目的は、市原架陰の精神に寄生する【悪魔】を奪うことだ。そのために、彼を連れ去り、そして、彼の周りの者にも危害を加えた.......」
「それが、どうしたって言うの?」
「お前について、少し調べさせて貰った.......」
「っ!!」
鬼丸の確信したような言葉に、カレンは息を呑んだ。
背筋がザワりとし、白い頬から冷や汗が流れ落ちる。
「.....私について、調べたの?」
「以前に、狂華から聞かなかったか?」
「.......狂華」
「お前たちは、【ハンターフェス】に参加しただろう? そこで、百合班に所属している狂華と会ったはずだ」
「ええ、会ったわ」
「知っての通り、狂華は悪魔の堕慧児だ。そして、百合班に潜伏している密偵でもある」
鬼丸の冷ややかな瞳か、さらに冷たさを帯びて光った。
「狂華に、お前の素性を調べさせてもらった」
「..............」
カレンは口を一文字に結び、言葉を飲み込んだ。
鬼丸は彼女の言動に注意をはらいながら続けた。
「城之内カレン.......、貿易により栄えた【城之内家】の長女であり、次期当主.......。現在は製菓で生計を立てているが、戦前から裏の家業として、未確認生物の討伐任務を請け負うようになり、その成功報酬で潤ってきた.......」
「..............」
カレンは何も言わない。
(揺さぶりには動じないか?)
鬼丸は続けた。
「だが.......、薔薇班の班長に、もう一人【城之内花蓮】と言う女が存在することが判明した.......」
「..............」
「珍しくは無いさ。戦国、帯刀の時代、我々武士は好きに名を名乗れた。同じ名前があることくらい、よくあること.......」
「..............」
「だが、貴様は少し違う」
「.......」
「狂華に、城之内家の出生名簿を調べさせたんだ。そうしたら、十八年前に、城之内家に双子が生まれたことが分かった.......」
パキンッ!
という音がした。
見れば、カレンが歯を食いしばっている。その顎の力ゆえ、奥歯が砕けたのだと、わかった。
辺りの空気が一瞬で濃くなる。
(なるほど.......、引き金は、【過去の話】か.......)
何かを察した鬼丸は、下唇を湿らせて、次の言葉を放った。
「忌み子。畜生腹。この言葉を知っているはずだ。特に、古くに栄えて、掟を大切にする名家なら尚更.......」
パキン、パキン、パキン。
城之内カレンはさらに歯を食いしばり、己の歯を砕いていた。
破損した歯の欠片が、パラパラと床に落ちる。
城之内カレンが今まで、ひたむきに隠し続けた秘密。
「単刀直入に言おう.......。貴様.......、【城之内カレン】ではないな?」
その②に続く
補足
城之内カレンの本名は【城之内紅愛】です。
十年前、城之内家の当主、つまり彼女達の父親が双子を忌み子として嫌い、紅愛の方を捨ててしまいました。紅愛は気を病み、自分のことを選ばれた【城之内花蓮】だと思い込むようになりました。




