肉片となるまで その②
濃霧の中に見る
世界の秘密
爪研ぎ米とぎ
灰色の入道雲
2
四人は走る。
振り向けば、夜行が猛スピードで追ってきていた。
「うわ!! あいつ、どんだけ再生能力高いんッスか!?」
「ほんと、さっきの一撃も、瞬き程の時間しか稼げなかったわね」
クロナは走りなが考えた。
どうやって夜行の追跡から逃れるか。
一番手っ取り早いのが、「ここで倒してしまう」ということだが、残念ながら夜行の特性は【不死】。どれだけ攻撃を与えても、直ぐに再生してしまう。
(架陰が言うには『再生には限度がある』らしいけど.......、底も見えない再生能力と付き合う程効率が悪いことは無いわね.......)
やはり、逃げるのに限る。
「クロナ姐さん!! 来ますよ!!」
「おっけ!!」
八坂の合図で、四人は同時に振り返った。
夜行までの距離、約三十メートル。
「【明鳥黒破斬】!!!」
「【爆炎火矢】!!」
「【名銃・NIGHT BREAKER】!!」
クロナ、真子、そして八坂の三人で同時に攻撃を放つ。
まずは、クロナの【明鳥黒破斬】が夜行の身体を消し飛ばし、そこを、真子の炎の矢が通過して、肉片を燃やす。
ダメ押しとばかりに、八坂の弾丸が肉片をさらに細かく砕いていった。
だが、それでも攻撃の隙間をくぐった肉片は、より集まり、腕ほどの大きさとなって迫ってきた。
「コノヤロウ!!」
鉄平の鉄棍が、肉の塊をたたき落とす。
「死んどけ!! このゾンビが!!」
地面に落ちた肉を、鉄棍で何度も突き刺す。
グチャり、グチャりと、肉片は潰れていった。
「鉄平さん、下がってッス!!」
真子の声で、鉄平は攻撃を辞めた。
真子が、地面の上でひき肉になっている夜行に【炎の矢】を打ち込む。
燃え上がる肉。
焼肉にも似た香りが、辺りに漂った。
「これでいいッスかね?」
「わからん。だけど、時間は稼げただろうよ!!」
クロナの明鳥黒破斬で吹き飛ばし、真子の炎の矢で燃やし、八坂の弾丸で打ち砕いた。
これで直ぐに回復されてたまるか。
四人はそう思っていた。
だが。
「うっ!!」
突然、クロナの首の後ろに焼けるような痛みが走った。
「クロナ姐さん!?」
「なにこれっ!?」
手で触れる。
何やら、ぶよぶよとした感触が残った。
「気持ち悪い!!」
クロナはそれを鷲掴みにすると、勢いよく地面に叩きつけた。
途端に、ブチッ!! という音がして、クロナの首筋が燃え上がるように痛み始めた。
「何をされた!?」
クロナの首筋にくっついていたのは、肉片だった。
誰のものかは、直ぐにわかった。
砕かれた夜行の身体の一部が、自立してクロナの首の肉に固着しようとしたのだ。
「クロナ姐さん!! 首の裏の皮が.......!!」
首筋に張り付いた夜行の肉を剥がした拍子に、自分の首の裏の皮まで持っていかれたようだ。
皮が剥げた部分から、血管の形に沿って血が滲み、じわじわと流れ出した。
「うー、気持ち悪い.......」
背筋を伝う生暖かい感覚に、クロナは身震いした。
地面に落ちた夜行の肉はと言うと、ズブズブと他の肉片と寄り集まって、再生を開始する。
まずは頭を治したようで、地面から夜行の頭が生えるような形となった。
「イヒヒヒヒヒ、おもしれぇだろ?」
「気持ち悪いわ!!」
クロナは夜行の頭に刀を振り下ろした。
頭蓋骨と脳みそごと両断される。
しかし、直ぐに肉片はぐにゃりと形を変えて、クロナの【黒鴉】の刃にまとわりついた。
刃から夜行の眼球がギョロりと生える。
「無駄だぜ。オレは何度も砕いても死なねぇ.......」
「いい加減!! 死ね!!!」
クロナは刀をブンブンと振って、夜行の肉を振り落とそうとした。
だが、夜行は刃に固着して、全く取れそうにない。
「くっ!!」
「クロナ姐さん!!」
真子が矢を放った。
鏃に炎を纏った矢が、クロナの黒鴉の刃に直撃。一瞬で、肉を焼いた。
焼けた夜行は、ボロボロと崩れ落ちる。
「やっぱり、真子ちゃんの炎の矢は有効ね!!」
「当然ッスよ!! わたしの【名弓・天照】は最強ッスから!!」
だが、安心はできない。
ビュンッ!!!
と、風を切る音がして、クロナの右脚が裂けた。
「っ!?」
太い血管をやられたようで、血が勢いよく吹き出す。
夜行の肉片が形を【鎌】のような形に変形して、クロナを切り裂いたのだ。
「このっ!!」
鉄平が、鉄棍を使って夜行を叩き潰す。
だが、夜行の肉片は、それを読んだかのようにぐにゃりと形を変えて、鉄棍の攻撃をすり抜けた。
「っ!!」
槍の形となる夜行。
そのまま、鉄平の肩を貫いた。
「があっ!!」
「こいつ!! 自在に形を変えて!!」
八坂がライフルを構えたが、すぐ横に鉄平、クロナがいたため、引き金を引くことがはばかれた。
鉄平の肩に固着した夜行は、肉片から自分の口を生やした。
「イヒヒヒヒヒ、どうだ!? オレの力は!! まだまだ余裕だぜ?」
その③に続く
補足
鉄平の武器は【鉄棍】です。鉄棍とは名ばかりで、工事現場の鉄パイプを拝借しているだけです。




