死神躍動 その②
溶岩の上で踊る
私の足は焼き爛れ
それでも貴方の姿を探し
月光の雨に身を委ねる
2
「ほんと、これは使いたくなかったんだよな・・・」
響也は、能力を使わざるを得なくなった自分の不甲斐なさを恥じた。
「だが、発動した以上は、本気で行かせて貰うよ・・・」
風が吹き付け、響也の細い身体を覆った黒布を激しく揺らす。
響也は、顔面に張り付いた骸骨の面の感触を確かめた。
(邪魔くさいが・・・、このままいくか・・・)
アスファルトを強く踏み込む。
身体能力が上昇しているためか、ビシッ!!と、鋭い亀裂が走った。
そのまま、勢いよく打ち上げられる響也の身体。
一直線に、笹倉に迫った。
「こいつ!!」
「【命刈り】!」
至近距離から斬撃を放つ。
当然受け切ることが出来ず、笹倉は斬撃と共に吹き飛ばされた。
隣接するビルの壁に激突。
「がはっ!!」
「もう一発!!!」
壁にめり込んで身動きが取れなくなった笹倉に向かって、無慈悲な一撃が叩き込まれた。
笹倉の右肩から、左脇腹にかけて、鋭い傷が走る。
肉がぱっくりと裂けて、血が噴出した。
「っ!」
声にならない悲鳴を上げる笹倉。
「終わりだ!!!」
笹倉は既に戦闘不能になっているというのに、響也は更に空中で身を捩って、斬撃を放とうとした。
次の瞬間。
パキンッ!!
という乾いた音が響いた。
「っ!!」
Death Scytheを一閃する直前だった響也の腕がぴくりと止まった。
パキッ!! パキパキンッ!!
と、響也の顔面から、砕けた髑髏の面が剥がれ落ちる。
(あ、やば・・・!!!)
ハッとした時には、もう遅かった。
響也の身体が、まるで鉛でもまとわりついたかのように一瞬で重くなった。
グラッとバラスを崩し、転落する響也。
すんでのところで、身を捩り受身をとる。しかし、背中を硬いコンクリートに強かに打ち付けてしまった。
「がはっ」
ダメだ。
能力の時間制限が来たのだ。
(クソ!!)
響也は直ぐに手をついて立ち上がった。
しかし、能力の反動がやってきて、上手く足に力が入らない。まるで産まれたての小鹿のようだった。
(早く避けないと・・・、追撃が来る!!)
だが、響也が心配するような攻撃は来なかった。
笹倉もまた、響也に強烈な一撃を喰らわせられたために、動くことが出来なかったのである。
「くそ、あの女・・・!!」
ビルの壁にめり込んだ笹倉は、右肩から血を噴出させながら、響也の方を見た。
響也は能力を使った時の反動で上手く動けていない。倒すなら今のうち。
しかし。
(オレも・・・、動けねぇ・・・)
手の力が抜け、握っていた刀が、スルッと落ちた。
落下して、落下していって、地面に突き刺さる音が響く。
「はあ・・・」
ため息をつく笹倉。
「ダメだこりゃ・・・」
ここで、笹倉は鈴白響也との戦いを諦めた。
見れば、鈴白響也も、笹倉の方など見向きもせずに、ずるり、ずるりと足を引きずりながら屋上の金網に背中の方へと歩いていっている。
完全に無視をされるのは癪に障るので、笹倉は響也の背中に声をかけていた。
「おい!! てめぇ!! ちゃんと決着つけていけよ!!」
と、負け犬の遠吠えを発してみた。
響也は振り返りもしなかった。
「ハアハア」と肩で荒い息を立てながら、金網を掴み、よたよたと危なっかしい動きでよじ登る。
(早く・・・カレンを助けに行かないと・・・)
金網を超えて、屋上のわずかな隙間の足場に立った。
「おいで・・・、Death Scythe」
響也が手を上空に掲げると、その手の中に液状化したDeathScytheが集まっていった。
響也の愛刀【DeathScythe】
それは、機械生命体を材料に使っているため、響也の指示のもと、自由自在にその姿かたちを変化させるのだ。
先程まで、笹倉と交わった三日月型の刃はドロドロと液状化して、響也の手のひらの上で形状を変えた。
そして、一本の箒。となる。
響也はDeathScytheが変化して出来た箒の柄を掴むと、DeathScytheの念力で身体を支えながら、フラフラと降下して行った。
それを見ていた笹倉は純粋に感嘆の声をもらしていた。
「あいつ、すげぇな・・・」
「はあ、はあ、はあ・・・」
屋上から地面に降り立った響也が真っ先に見たのは、雨宮クロナと悪魔の堕慧児・・・蜻蛉との戦いだった。
さすがクロナ。と言うべきか、悪魔の堕慧児を圧倒する戦いをしている。
その戦いに、響也は水を指した。
「おい、クロナ!!」
「え!? あ!! はい!」
蜻蛉と激しい剣戟を繰り広げながら、クロナはちゃっかりと響也の方を振り返った。
「あれ? 響也さん、どうしたんですか? 終わったんですか?」
クロナの目には希望の光が宿っており、「早く私の援護をしてください」と言わんばかりだった。
もちろん、カレンを優先している響也にそんな気は一ミリも無い。
「クロナ、ここは任せたぞ!」
そういうと、DeathScytheの浮遊能力に助力してもらいながら、大通りを駆けていった。
「え? あれ!?」
クロナは一人取り残されることになった。
その③に続く
補足
鈴白響也のDeathScytheには浮遊機能があります。と言っても、空を飛べるわけではなく、落下時の衝撃を緩和する程度です。




