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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
393/530

繋いだ手 その②

砂に塗れようと


その温もりがある限り


僕は手を繋ぐ

2


十年だ。


十年、蒼弥は師匠の帰りを待っていた。


毎日、温かい食事を作り、薪を山で採取して、熱々の五右衛門風呂を沸かす。


刀の鍛錬も忘れなかった。


いつも隣で見ていた、師匠の動きを脳裏に刻み、なぞるようにして熱した鉄を打った。


それでも、師匠は帰ってこない。


明日は帰ってくるかもしれない。


明後日は帰ってくるかもしれない。


もしかしたら、あと一年くらい待てば・・・、ひょっこりと現れて「やあ、久しぶり」なんてことを言うかもしれない。


そんな、浅はかな妄想を続けていた。


時が経つにつれて、そんな考えは埃を被るように薄れていき、いつしか、「諦め」を抱くようになっていた。


それでも、いつかは。


いつの日かは。










再会できる日が、来るんじゃないかって。











そう、一ミリよりも小さな希望を抱き続けていた。




















「師匠!!!」


蒼弥は、強ばる脚に鞭を打って、路地裏から大通りに飛び出した。


一代目鉄火斎は、今まさに、刃を身動きの取れないアクアに振り下ろそうとしている。


「させない!!」


腰の刀を抜くと、思い切り投げた。


刀は、蒼弥の意思に従うようにして、一代目鉄火斎へと一直線に飛んで行った。


気づいた一代目鉄火斎は、アクアから刀に意識を移し、刃を弾く。


上空へと打ち上げられる刀。


(やるしかねぇ!!)


拳を握りしめる蒼弥。


(能力!! 【炎】!!)


能力を発動する。


すると、握りしめた拳の周りを、赤い炎がメラメラと取り巻き始めた。


「頼む!!」


炎を纏わせた拳を、虚空に向かって放つ。


「いけぇ!!」


炎が、轟轟と燃え上がりながら一代目鉄火斎に迫る。


流石の彼も、たまらず後退した。


(引きやがった!!)


この機会を逃さない。


蒼弥は、ちょうど頭上から落ちてきた刀の柄を掴んだ。


流れるような動作で、追撃する。


投擲された刀は、神速の如きスピードで一代目鉄火斎に迫り、彼の右脚の太ももに突き刺さった。


「っ!?」


初めて顔を顰める一代目鉄火斎。


「師匠!!!」


怯んだ一代目鉄火斎との間を詰めた蒼弥は、その顔面に、握りしめた拳を叩き込んだ。


ゴキリ。


と、鈍い音が響く。


骨が軋むような、生々しい感触が拳に残った。


「ああああああああぁぁぁっ!!」


振り切る。


一代目鉄火斎は、為す術なく殴り飛ばされ、肉塊で覆われたアスファルトの上に背中を叩きつけた。


口から歯が二、三本吹き飛び、地面にコツンと転がる。


「ああああああああぁぁぁ!!! ああああああああぁぁぁ!!!」


蒼弥は喉が切れんばかりに叫ぶと、一代目鉄火斎の上に馬乗りになった。


めちゃくちゃに、一代目鉄火斎の顔面を殴る。


「くそ!! 馬鹿師匠!! くそ!! くそ!! この野郎!! オレがどんな気持ちで待っていたかわかってんのかよ!!」


「・・・・・・・・・」


一代目鉄火斎は、まるで人形のように殴られ続けた。


「ああああああああぁぁぁ!! ああああああああぁぁぁ!! ああああああああぁぁぁ!!ああああああああぁぁぁ!!!」


いつしか、蒼弥の目には、大粒の涙が溜まっていた。


それはボロボロとこぼれ落ちて、殴られ腫れた一代目鉄火斎の顔面を濡らしていく。


一通り殴った蒼弥は、力なく崩れ落ち、一代目鉄火斎の胸に額を押し付けた。


そして、絞り出した。










「ごめんよぉ・・・」











ごめん。


ただ、それを伝えた。


「ごめん。オレ、師匠との約束、守れなくてごめん・・・。師匠がずっと、『刀を作るな』って言ってたのに・・・、作って、ごめん・・・」


わかっている。


師匠からすれば、蒼弥の作った刀など、赤子の落書きのようなものだと。


だけど。


「それでも・・・、オレ、師匠みたいになりたかったんだよ・・・」


これは、雛の刷り込みのようなものだった。


卵から生まれた雛は、一番最初に見たものを親だと判断して、着いて回る。


蒼弥の親は、彼を産んだ女でも、彼を山に捨てようとした男でもない。


UMAに食われそうになっていた蒼弥を助けてくれた、一代目鉄火斎だった。


師匠を、父親のように慕い、まるで神でも崇めるかのように、尊敬していた。


「頼むからさぁ、師匠・・・、帰ってきてくれよ!!」


「蒼弥・・・」


腫れた顔で、一代目鉄火斎が見ている。


彼は、そっと手を伸ばしてきて、蒼弥の頬を撫でた。


「なんだ・・・、見ない間に、随分と大きくなったじゃないか・・・」


「師匠・・・」


蒼弥は、師匠の手に自分の手を重ねた。


「師匠。もう、やめてくれ。帰ってきてくれ」


「うん・・・」


一代目鉄火斎は、十年前と同じ、慈愛に満ちた表情で微笑んだ。


そして、こう言った。











「ごめん」











次の瞬間、蒼弥の腹に焼けるような痛みが走った。


「え・・・」


ような。では無い。実際に焼けていた。


一代目鉄火斎が、溶岩を指先に纏わせて、それを、蒼弥の腹に押し付けていたのだ。


灼熱の指は、蒼弥の着物を焼き、腹の肉を焼いた。


ズブズブとめり込む。


「あ・・・」


「ごめんね。蒼弥。僕は、もう止まれないんだよ」










その③に続く

補足


二代目鉄火斎(蒼弥)の能力は【炎】です。彼は自分が思うよりも天才肌なので、四歳の頃に既に能力に目覚めていました。それを使って、風呂を沸かしたり調理をしたり、あとは鉄を溶かす溶解炉に利用しています。

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