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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
388/530

二代目鉄火斎外伝 その④

時は動き出す


死へと向かう

4


そして、その日がやってきた。


「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


そう言って小屋を出ていく師匠の背には、竹で編んだ籠が背負われ、その中に大量の刀が入っていた。


その数、三十本。


師匠が少し動く度に、中で擦れあい、ガチャガチャと騒がしい音を立てていた。


「三日後に戻る。留守番、頼んだよ」


師匠はそう言うと、タコだらけの手でオレの頭をくしゃくしゃと撫でた。


オレは恥ずかしくなって、その手を払い除ける。


「やめてくれよ。オレ、もう四歳だぜ?」


「ぷぷっ!!」


何故か盛大に吹き出された。


「世間一般じゃ、四歳は赤子だよ」


「ああ?」


「僕のしつけが良かったってことだよね」


「まあ、オレ、もう一人で飯も作れるし、風呂も沸かせるからな」


そんな他愛の無い会話を続けてから、師匠はくるりと踵を返した。


そして、首だけで振り返り、手を振る。


「じゃあね。いい子にしておくんだよ」


「ああ!!」


「帰ったら、刀の作り方、教えてあげるからね」


「まじか!!」


オレはその場で跳ね上がって喜んだ。


「約束だぜ!! ちゃんと教えろよ!! オレ!! 師匠みたいに綺麗な刀を作りたいんだからな!!」


「うん」


師匠はオレとそう約束して、小屋を出ていった。


その日からの三日間。


オレは一人で留守番しながら、今か今かと師匠の帰りを待っていた。


山で山菜を採っている時も。


小屋の裏で五右衛門風呂を沸かしている時も。


森に狩り出て、イノシシの肉を削いでいる時も。


いつも師匠の横顔と、師匠の作る、まるで宝石のような刀を思い浮かべていた。


楽しみだなぁ。


刀を打つの、楽しみだなぁ。


ずっと師匠の姿を見ていたからわかるんだ。鉱石は、こうやって溶かして、鉄はこうやって打つ。柄の装飾はこうやって巻いて、鍔はこうやって彫る。


それがやっと、実践に移せる。


こんな嬉しいことがあるか?


オレは待った。


師匠を待った。


一日待った。


二日待った。


三日待った。


でも、師匠は帰ってこなかった。


あれ?


おかしいな。


道中に手間取っているのかな?


じゃあ、もう少しかかるのかな?


四日待った。


五日待った。


六日待った。


七日待った。


八日待った。


九日待った。


十日待った。


あれ?


まだ帰ってこないや。


師匠のために、山菜鍋を用意しておいたのに、今日も一人で食べきらなきゃならない。


一ヶ月。


二ヶ月。


三ヶ月。


四ヶ月。


五ヶ月。


六ヶ月。


一年。


二年。


三年。


四年。


五年。


六年。


七年。


八年。


九年。


十年。









































「ああ、やっと会えたな・・・」

























オレはその日、師匠と再会した。


師匠は変わり果てていた。


人間に仇をなす【悪魔の堕慧児】の一味に加わり、彼らのために刀を作っていた。


表情は、十年前と同じ師匠のもの。


にこやかで、何を考えているのか分からなくて、身軽で、強くて。


そして、冷酷だ。


師匠・・・。


見てくれよ。


オレ、あの後、独学で刀を作ったんだ。


師匠の姿を思い浮かべて、何度も失敗しながら、何度も刀を作ったんだ。


見たかな?


架陰の【名刀・赫夜】。


あれは、師匠が置いていった【名刀・赫夜】を真似て作ってみたんだ。うん。怒るのは分かるよ。


だけど、なかなか上手いだろう?


刀身の部分とか、結構凝ったんだよ。


斬れ味もいいよ。


見たかな?


架陰の【名刀・叢雲】。


あれは、オレの最高傑作なんだよ。


誰の真似もせずに、オレの力だけで作った逸品なんだよ。


なあ、褒めてくれよ。


なあ・・・、褒めてよ。


褒めてくれよ。










なんで、そんなこと言うんだよ。










頼むよ。


オレに「刀を打つな」なんて言わないでくれよ。血は繋がってないけど、オレは、師匠の子供だぜ?


刀鍛冶である師匠の子供だぜ?


分かるよ。わかってるよ。ごめんと思うよ。


勝手に師匠の名前を名乗って、悪いと思うよ。


だけど、本気なんだよ。


師匠。










オレは本気で、師匠の跡を継ぎたかった。


【二代目鉄火斎】になりたかった。










師匠。


ごめんよ。


オレを置いていったあんたには、恨み言ばっかりだよ。だけどな、それでもな、嬉しかったんだよ。


もう一度あんたに会えて、嬉しいよ。










だから、今度は、置いていかないでくれよ。











オレ、あんたとずっと、話をしたかったんだよ・・・。












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