二代目鉄火斎外伝 その②
サヨナラまであと三秒
2
突如上空から舞い降りた鳥の化け物は、木の根元にオレを捨てた男の頭をぱくりと食べた。
首を失った男は、フラフラと歩き出し、崖の下へと転落。
一方、鳥の化け物は、嘴を使って器用に、男の頭を噛み砕いていく。
バキリバキリ、バキリバキリと、まるでナッツでも食べているかのような乾いた音が響いた。
嘴の隙間から、男のピンク色の脳みそと、赤々とした血液が滴り落ちる。
そして、ゴクリの飲み込んだ。
鳥の化け物は、次に木の根元で泣いているオレを見た。
生後数時間のオレは、当然抵抗する力もなく、ただ、鳥に食べられるのを待つだけだった。
鳥が血まみれの嘴を開く。
そして、オレを飲み込もうとした。
次の瞬間。
森の奥から、白銀の刃を持つ刀が飛んできて、鳥の脳天を貫いた。
鳥は「ギャアアアアア!!」と劈き、身体を上下に揺らす。
そして、先程の男同様、崖の下へと転落していった。
声が聞こえた。
「ふー、危なかったね」
森の奥から、足袋で落ち葉を踏みしめながら、一人の男が悠長に歩いてきた。
髪の毛は赤っぽく、時代錯誤な藍色の着物。背中には山菜を入れる籠が背負われ、腰には二本の刀が携えてあった。
年齢は二十代中頃。
穏やかな瞳をした男だった。
「おやおや、どうしたんだい?」
男は木の根に捨てられているオレを見るや否や、ニコニコと笑いながら近づいてきた。
裸のオレを抱き起こす。
「ああ、捨て子か・・・」
ちらりと崖の下を見る男。
「ちょっと待っててね」
そういうと、背中に背負っていた籠の中にオレを入れて、地面に下ろした。
そして、まるで山肌を駆ける山羊のような勢いで、崖下へと下っていった。
しばらくして、男は首なしの死体を背負って戻ってきた。
「うーん。これ、君の父親かな?」
父親だ。
だが、赤子のオレには答えることが出来ない。
ただ、顔を真っ赤にして泣くことしか出来ない。
「それは気の毒だな。親に捨てられて、親をUMAに食べられちゃうなんて・・・」
男は、崖下から回収してきた死体を、岩場にそっともたれさせた。
「とりあえず、警察と、UMAハンターには報告するとして・・・」
ちらりと籠の中のオレを見る男。
「この子・・・、どうしよっかな?」
※
「はいはい!! ようこそ!! 我が家へ!!」
気がつくと、オレは男の養子になっていた。
蒼弥。という名をつけられた。
男の名前は、【一代目鉄火斎】と言った。もちろん、本名では無い。本名は教えてもらうことは無かった。
彼は、この山の中に籠り、社会と断絶された環境で、刀鍛冶として生計を立てていた。
大昔の農民が暮らしてたかのような、囲炉裏しかない平屋で暮らし、隣の工房で依頼された刀を作る毎日。
その頃から、未確認生物が世界中に蔓延していたので、依頼のほとんどが、UMAハンターの武器だった。
オレは、一代目鉄火斎に育てられて育った。
あいつは、本当に良い奴だった。
本当の父親みたいだった。
オレは、あいつが大好きだった。
言葉も。食事も、排泄も。着替えも。
全部あいつに教わった。
勉強も。歩くことも。走ることも。
オレと師匠が住んでいた山には、よくUMAが出没していた。
オレの親父を殺した【ローペン】しかり、バンイップやモスマン。吸血樹までもが生息している。オレも山で山菜を採っている最中、よく襲われた。
その度に、師匠が助けてくれた。
師匠は刀鍛冶ではあったものの、身体能力はUMAハンターに匹敵するほどだった。
それなりの脚力や体力があった。剣術は、一流。師匠にかかれば、どんなUMAを相手にしてようと、必ず命を奪うことが出来た。
「いいかい。蒼弥・・・」
師匠がオレによく言い聞かせていたことがある。
「戦う方法じゃない。刀を作る方法じゃない。【生きるための力】を身につけるんだ」
生きるための力。
耳にタコができるくらいに言われた言葉。
オレが四歳になる頃、オレは師匠に憧れて、よく「刀の作り方を教えてくれ」と頼むようになった。
その度に、師匠は苦笑を浮かべでそう言うのだ。
「【生きるための力】だよ」
刀の作り方を教えてくれない代わりに、料理の仕方や、五右衛門風呂の炊き方。狩りの仕方も教えてもらった。
それでもオレは納得がいかなくて、よく師匠に文句を言った。
「どうしてだよ。師匠・・・、オレにも刀の作り方を教えてくれよォ」
「ダメダメ」
師匠はニコッと笑って、オレの額を小突く。
「お前にはまだ早い」
早いってなんだよ。
オレはもう四歳だぜ?
確かに、世間一般ではオレのことを【幼稚園児】なんて言うのかもしれないけど、師匠のおかげで、ある程度は強くなれたんだぜ?
猿みたいに山の中を駆けることが出来る。
一人で料理もできるし、風呂にだって入れる。
オレ、あんたのおかげで、あんたが思うように、強くなったんだぜ?
それなのに、どうして、刀だけは作らせてくれないんだよ・・・。
オレは師匠に感謝しながら、それでも、胸の奥にささくれのような、師匠への不満を抱きながら・・・、生きていた。
師匠がいなくなる日まで。
その③に続く
その③に続く




