表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
385/530

番外編【二代目鉄火斎外伝】 その①

老いることは


死ぬ事ではなく


貴方に逢いに行くこと

稀に、「幼い頃の記憶」がある人間がいると聞く。


幼い頃・・・、その定義がよく分からない。そもそも、何歳から、何歳までが「幼い頃」と言うんだ?


小学校低学年くらいまでを、「幼い頃」と定義するのだとしたら、多少のことを覚えていて当然だろう。


好きだったゲーム。


好きだった漫画。


嫌いな学校の先生。


退屈でたまらなかった算数の時間。


この位は思い出せるだろう。もし思い出せないのだとしたら、一種の記憶障害を疑うくらいだ。


でもまあ、十四年間学校にも通わず、刀を打つことだけに心血を注ぎ続けたオレにとって、そんな世間一般の記憶など端から存在しない。


そうだな・・・。


じゃあ、オレの「幼い頃」は、四歳までのことだろう。


生まれてまもなく、顔も知らない親に捨てられて、山の中でただただ腐っていくのを待つしかなかったオレを拾ってくれた、師匠との記憶が、オレの「幼い頃」のほとんどをけいせいしていた。










これは、オレと師匠の物語だ。











1


オレを産んだ女は、ろくでもないやつだった。


ただ、快楽のために男と交わり、身ごもり、少しずつ膨れていく腹を見て見ぬふりをして過ごしていた。


堕ろせばいいのに、それすら考える余裕が無い程に無知で、優柔不断で、臆病な女だった。


だから、たとえ望まれなくとも、オレは母親の体内で、母親の食った少ない栄養分を奪って、まるで彼女の腹を裂かんはかりに大きくなった。


そして、オレは狭いトイレの中で産声をあげた。


女は泣いていた。


頭を掻きむしり、煙草のヤニで薄汚れた天井を眺めながら「オレ」という自己を確立するかのように泣きわめくオレを見て、ただひたすらに、蚊の鳴くような声で「産むんじゃなかった産むんじゃなかった産むんじゃなかった産むんじゃなかった産むんじゃなかった産むんじゃなかった産むんじゃ」。と、呟いていた。


産むんじゃなかった。


母さんの股からは血が流れ出ていた。オレが出てくる時に切ったのだ。


母さんは、一度はオレの首に手をかけて、今しがた外の世界の空気を吸ったばかりのオレの気道をつぶそうとした。


だが、やっぱり怖くなったのだと思う。


母さんは、オレを殺すことが出来なかった。かと言って、育てる余力も無く、ワンワンと泣くオレを抱えて、しばらく放心していた。


しばらくして、母さんを孕ませた男。つまり、オレの父親がアパートにやってきた。


男は何も言わず、母さんからオレを奪い取った。


そして、まるでパーキングエリアでトイレを探すかのような勢いで、「捨ててくる」と言ったのだった。


ここに来てようやく、母さんの「母性」というものが目覚めたのか、男に対して「子供を返せ」とせがんだ。


衰弱していた母さんは返り討ちにあった。


腹を蹴られ、踏みつけにされ、アパートのキッチンの台の角に頭をぶつけて、動かなくなった。


男はほんの少し突いただけのつもりだったため、頭から血を流し、ピクピクと痙攣する母さんには見向きもせず、オレを連れて外に出た。


母さんは死んでいた。


オレにはわかる。誰にでもわかる。


あれから母さんがどうなったのか、あの部屋に二度と戻ることは無かったオレには分からない。










母さんも母さんだが、男も男だ。


俺が乗せられたワゴン車の中には、レイプに使うための拘束具やアダルトグッズが散乱して、シートに染み付いた男と女の体液が異臭を放っていた。


タバコをプカプカとふかして、時々、ワンワンと泣くオレの方を振り返って「やかましい!!」と怒鳴りつける。


それでもオレが泣き止まないので、仕舞いには諦めて、舌打ちばかりをするようになった。










車はしばらく走り、とある山の中に到着した。


男は携帯の地図で位置情報をしっかりと確認して、人目に付かない場所を探していた。


そして、獣道を見つけると、裸のオレを引っ掴んで中に踏み入っていった。


「獣に食わせればいい」


それが男の考えだった。


なかなか単純で、効率的な方法じゃないか。


オレは身体が猫のように小さいから、クマや猿に簡単に食べられる。残ったとしても、土に還り、いずれは骨も砂と化して消え失せるだろう。


生後数時間で命日。


オレはワンワンと泣きながら自分の死を悟った。


獣道に踏み入った男は、オレをおおきな木の根元に置いた。


そして、オレの口を塞ごうと、腕を振り上げた。


頭を潰される。


そう確信した。


だが、次の瞬間、突然、「バサバサ」と鳥の羽ばたくような音が聞こえた。


ハッとして顔をあげる男。


上空から巨大な鳥が襲撃してきて、男の頭をぱくりと食べた。


ブチリ、パキリ、ゴキリと、鈍い音が響き、男の頭が胴体から分断される。


まるで、太古の恐竜プテラノドンような鳥は、獲物に食らいつくカラスのように、鋭く、冷たい目をしていた。


頭を失くした男は、断面から血を噴出させながらフラフラと歩き出し、獣道から足を踏み外して谷底へと転落していった。













その②に続く

その②に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ