【第114話】 灼熱地獄 その①
灼熱の地獄は千里先
大海を超えて
砂漠を超えて
滴る血肉を啜り
ひび割れた皮の先にある
1
「蒼弥・・・、僕は言ったはずだよ・・・」
刀を突き立てた部分を中心に、地面の肉塊及びアスファルトが赤く発熱して、ドロドロと溶けだした。
「『刀は作るな』と」
「っ!!」
足元まで溶岩が広がってきた。
蒼弥とアクアは、下からせり上がってくる熱に、思わず後ずさる。
「ふざけんなよ・・・」
奥歯を噛み締める蒼弥。
「じゃあ、なんで、オレに刀の作り方を教えたんだよ・・・!!」
「言う必要は無い」
地面から刀を抜く一代目鉄火斎。
ドロドロに溶けだしたアスファルトが、糸を引くように刀の鋒にこびりついていた。
「直ぐに、骨まで焼き尽くしてやるから・・・」
「くそっ!! この馬鹿師匠!!!」
話の通じない師匠に痺れを切らした蒼弥は、怒りに任せて、腰の刀を抜いた。
「【名刀・鉄火】!!!」
地面に突き刺す。
「能力!! 【炎拡大】!!!」
アスファルトをドロドロに溶かした一代目鉄火斎に対して、蒼弥が刀を地面に刺した瞬間、そこを中心として、半径二十メートル圏内が炎に包まれた。
「焼かれてたまるかよ!! てめぇは、オレがぶん殴って連れ戻す!!」
「ぶん殴るって・・・、斬る気満々じゃないか・・・」
「うっせぇ!!」
蒼弥は、刀の刃に炎を纏わせると、虚空に向かって振り下ろした。
「炎刃!!!」
炎が三日月形の斬撃となって、一代目鉄火斎に
放たれた。
一代目鉄火斎は迫り来る斬撃を見て、ニヤリと笑う。
「ぬるいね」
そして、溶岩がこびりついた刃で、それをかき消した。
「ダメだね。とんだ鈍だ。これも、あの刀みたいに折らないといけない」
「そうかよ!!!」
再び地面に刀を突き立てる蒼弥。
柄を握りしめ、ぐっと、地中に刃を押し込む。
その瞬間、一代目鉄火斎の足元から炎が吹き出して、彼を包み込んだ。
「十年前の半べそかいてたオレとは違うぜ!!」
「一緒じゃないか・・・」
一代目鉄火斎は、蚊を払うかのように刀を振った。
たちまち、彼を包み込んでいた炎が飛散して消え失せる。
「なっ!?」
「【溶岩鞭】・・・」
刃を振るう。
その鋒から、溶岩が伸び、まるで鞭のようにしなって蒼弥に迫った。
「っ!!」
蒼弥は慌てて飛び退く。
だが、溶岩で形成された鞭は、生き物のように蠢き、後退した彼を追跡した。
「まずい!!」
回避が間に合わない。
灼熱の鞭が、彼の足に巻きつこうとした次の瞬間、アクアが動いた。
「【水砲撃】!!」
翳した手のひらから、水の塊を放出する。
消防車の放水のように、大量の水が、一代目鉄火斎の操る溶岩の鞭に直撃。
その瞬間、ジュワッ!!! と、白い水蒸気が発生して、辺りを包み込んだ。
水によって冷やされた溶岩は、黒っぽい岩石に戻る。
何とか危機を回避した蒼弥。
「二代目鉄火斎、大丈夫!?」
「ああ、助かった・・・」
蒼弥は水蒸気を手で払いながら、見えないアクアに感謝を伝えた。
そうだ。
アクアの能力は【水操作】。
射程距離内の水分は自在に操ることができる他、自分自身からも水分を生み出すことができるのだ。
「アクアさん。頼むぜ。あいつが溶岩飛ばしてきたら、その能力で冷やしてくれ」
「あまりやりたくはないわね」
アクアは蒼弥の援護に乗り気ではなかった。
決して、蒼弥のことを助ける気が無いわけでは無い。
「分かるでしょうけど・・・、さっきの一撃で、私の水分が全部飛ばされた・・・」
「っ・・・!?」
「確かに、私の水は、一代目鉄火斎の溶岩を封じることができる。だけど、そうする度に、ここは、水蒸気で満たされていくのよ・・・」
もくもくと、白い水蒸気が辺りに充満している。
彼女が能力を発動して、一代目鉄火斎の能力を封じる度に、彼らの視界を奪うことになるのだ。
「いや、その点は大丈夫だぜ・・・」
蒼弥は力強く宣言すると、刀を振った。
地面を、彼が放った炎が這う。
「こうやって、地面を温めてやれば・・・」
ブワッ!!
と、充満していた水蒸気が払われた。
「っ!!」
「上昇気流で、視界は開ける!!」
仕切り直しだった。
蒼弥は刀を下段に構えて、一代目鉄火斎と対峙する。
「頼むぜ。アクアさん。オレの援護をしてくれ・・・」
「わかったわ・・・」
アクアは、何時でも援護射撃が行えるように、手の中に水を発生させた。
じっと睨み合う、蒼弥と一代目鉄火斎。
一代目鉄火斎は再び刀を振って、硬質化したアスファルトを再び溶岩に変化させた。
「水の能力者か・・・、使いようによっては厄介だね・・・」
「全部カチカチに固めてやるさ!!」
その②に続く
その②




