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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
373/530

【第111話】 太歳 その①

右心房の鍵穴に


褐色の指を入れて


抉り出すのは五芒星


囲炉裏に残る木漏れ日に


求めるは十六夜の日輪

1


「身体が温まってきたよ」


先程の斎藤の一撃をものともせず、唐草は上体を起こして立ち上がった。


革鎧の隙間に入り込んだガラス片をパラパラと落とす。


「さあて、楽しめそうだ」


コキコキと首を鳴らした。


その一つ一つの動作に、薔薇班の四名は警戒し、身を固くしていた。


「うん。こうでなくっちゃ」


一息置いて、再び肉塊で覆われた地面に降り立つ唐草。


「ほら、続きと行こうよ」


唐草と神谷を警戒するあまり、身動きが取れないでいる西原を挑発した。


「早く、桜班の副班長を奪還したいんだろ? なら、早く僕たちを倒さないと」


「倒しませんよ」


西原が斬り込む。


「半殺しにして、強制的に居場所を吐かせて貰います」


「いいね。そういう答え、嫌いじゃないよ?」


西原が振り下ろした剣を、和傘の側面で受ける唐草。


唐草の背後に、斎藤が回り込む。


それに気づいた唐草は、西原と刃を合わせたまま、身を反転させた。


「っ!?」


「甘い甘い」


西原の背が、斎藤の方に向くようにする。


攻撃を仕掛けようと構えていた斎藤は、狙いを定めることができず、歯を食いしばった。


「西原さん!!」


「わかっている!!」


西原は一度剣を引くと、地面を蹴って後退。


西原と斎藤の位置が入れ替わった。


斎藤はタキシードの内ポケットに手を入れて、三本のナイフを取り出した。











「【バトラーのテーブルセット】」











そのナイフを、スナップを効かせて、唐草に投擲する。


三本のナイフは、空気を引き裂きながら唐草に迫った。


唐草は瞬時に、和傘を開いて盾の代わりにする。










「【名傘・雨之朧月】!!」











傘の張りの部分に弾かれるナイフ。


「ちっ!! 仕損じた!!!」


「からの!!」


唐草は傘の柄を強く握りしめた。


それを合図に、傘本体の能力が発動する。


真紅の和傘の表面に、水滴がプツプツと浮いて出た。


「っ!!」


なにか来る。


瞬間的に悟った西原は、剣を右手から左手に持ち替え、空いた右手の指を鳴らした。










「能力【結界】!!!」


「【雨之朧月・夕立】!!!」










和傘の表面から、玉の水滴が、弾丸のごとき速さで発射された。


それよりも先に、西原が自身の能力である【結界】を発動させる。


西原と斎藤の目の前に、半透明の薄緑のバリアが現れた。


雨粒の弾丸は、その結界の前に弾かれる。


「へえ、それがあんたの能力かっ!!」


「そうですとも」


結界の影から飛び出す。


西原と斎藤は、一瞬の目配せで作戦を確認し合うと、軽快にサイドステップを踏みながら、唐草に迫った。


斎藤が右に。


西原が左に。


西原が右に。


斎藤が左に。


交互に位置を入れ替わることによって、唐草を翻弄する。


「っ!?」


唐草は反応することが出来なかった。


すれ違いざまに、西原が剣を一閃。


左腕に一文字の傷が走り、血が吹き出した。


「ありゃ、反応ができなかったや」


「それは良いことです」


斎藤がトドメを入れにかかる。


タキシードの内ポケットから、ナイフを一本抜き取ると、逆手に握りしめ、唐草の喉元に向かって突き刺す。


唐草は特に抵抗する様子もない。


ズブリと、ナイフの鋒が唐草の喉笛を穿った。


「終わりですね」


斎藤はダメ押しとばかりに、ナイフをさらに奥へと押し込んだ。


喉にナイフが刺さっていると言うのに、唐草は相変わらずニヤニヤと笑っていた。


「今だよ。神谷」


「了解」


その瞬間、神谷が動いた。










「永劫せよ【太歳】・・・」












傍観していた神谷がそう呟いた時、彼の姿が変化した。


幼げな顔が、ボゴボゴと腫れ上がり、一瞬で原型を失くす。両足が腫れ上がり、足袋を突き破って肥大化した。


「っ!!!」


危険を察知した桐谷は、瞬時に判断を下すと、傍にいた城之内花蓮を抱えてその場から離脱した。


咄嗟に逃亡。


桐谷の判断は正しかった。


変化を始めた神谷は、みるみると違う姿へ変貌していく。


小柄身体は、十メートル程まで巨大化。身にまとっていた着物はとっくに引きちぎれて宙を舞う。


肉の表面は青白く染まり、生々しい青筋が浮いて、独立して生きているかのように振動した。


足が変化する。


指が伸びて、無数に枝分かれした。


地面を突き破って、地中に潜り込んでいく足。


まるで木が根を張るように、それは地中をどす黒い肉の触手で侵食していった。


「これはっ!!」


「面白いでしょ?」


唐草は、喉にナイフを刺されたまま言った。


溢れ出した血液が逆流して、彼が口を開く度にゴボコボと壊れた排水溝のような音を立てた。


巨大な肉の塊・・・、いや、巨大な【樹木】に変化した神谷は、そのうちの枝を一本、唐草に向かって伸ばした。


警戒した斎藤は、その場から飛び退く。


枝が、唐草の脳天に突き刺さった。


「うん。いいねぇ」


唐草が喉のナイフを抜くと、傷が一瞬で塞がる。


「いいねぇ、いいねぇ!!」


唐草の傷はきれいさっぱり消滅していた。












「見たかな? これが、神谷の能力【太歳】だよ」












その②に続く


その②に続く

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