合同作戦開始 その②
手を取り合う
薔薇と椿
2
「なんじゃこりゃ」
目の前の光景を見て、椿班の班長である【堂島鉄平】は、あからさまに顔を顰めた。
かつて、灰色のビルが立ち並び、多くのサラリーマンや観光客、若者が闊歩していたその街は、一晩にして地獄と化していた。
建物が命を持ったように、赤黒く染まり、所々に血管のような模様を確認出来た。
地面にもその「赤黒」は広がっていて、固いような、柔らかいような、陸上トラックのタータンを踏んでいるような感触だった。
この街の変化に巻き込まれたのか、あちこちに人間の死体が転がっていた。
皆、足を欠損したり、首を欠損したりと、尋常ではない様子。
辺りに充満するこの生臭い香が、死体から発せられているのか、それともビル郡に広がった肉壁によるものなのか。
「どうなってんだよ、こりゃ」
「とりあえず、調査するしかありませんね」
地獄の街に踏み入ることを渋る鉄平の横を、副班長の山田が筋肉質の巨体を揺らしながら通りすぎた。
「我々の任務は、この街の調査です」
「そうッスよ!! 鉄平さん!!謎を解き明かしちゃいましょう!!」
四席の矢島真子も、そう言って意気込んだ。
唯一、三席の【八坂銀二】だけは、欠伸を噛み殺して「早く帰りたい」とボヤいた。
鉄平は、頬を数回叩いて気合いを入れると、「じゃあ、早速調査と行きますか」と言って、山田を追い越して、先陣を切って街に踏み入れた。
ぞろぞろと、山田、真子、八坂と続く。
八坂が言った。
「ってか、なんでオレたち、ここの調査に派遣されたんですか? ここ、桜班の管轄ですよね」
「あん?」
ギロリと振り返る鉄平。
「おい、八坂。てめぇ、まさか架陰に協力しないつもりじゃねぇだろうな?」
「いや、そういうつもりじゃないです」
八坂は慌てて首を横に振った。
「ただ・・・、肝心の桜班が、現場に到着していないので・・・」
桜班の管轄地域だと言うのに、桜班ではなく、椿班が派遣されるのが腑に落ちなかったのだ。
すぐさま、山田が補足した。
「八坂。もうしばらくしたら、桜班も駆けつけます。あと、今回は薔薇班の方も調査に協力してくれるそうですよ?」
「え、薔薇班も来るっスか?」
矢島真子が目を丸くしてそう言った。
薔薇班。という言葉に過敏に反応した矢島真子を見て、山田が尋ねた。
「なにか、心当たりがあるのか?」
「いや、ハンターフェスの時に、ちょっこし戦ったンスよ」
「ああ」
真子の脳裏に浮かぶのは、薔薇班・三席の【桐谷】の姿だった。
「へえ、あいつも来るっスか・・・」
「来てないじゃん」
八坂は皮肉を込めて辺りを見渡した。
「オレ、ハンターフェスの時に、薔薇班の爺さんにやられたんですよ。あんまり会いたくないなぁ」
八坂にとっては苦い思い出だ。
ハンターフェスの時に、響也を援護したおかげで、薔薇班の四席から返り討ちに遭ったのだ。
薔薇班と交わりたくない八坂と、真子を宥めるように、山田が言った。
「薔薇班は、街の反対側から来るそうですよ。今回はあくまで調査なので、手分けをした方が早い。という話ですね」
「そうッスか」
「オレは早く架陰と合流したいぜ」
「鉄平さん。無茶言わないでください。架陰殿は、刀が破損したので、一度匠の方に報告に行っているんです」
「そうかぁ?」
四人は、規制線が張られ、人通りの無くなった大通りを見て回った。
人一人、UMA一匹と見当たらない。
いや、人一人いない。と言うのは語弊がある。
道端には、何者かに身体の部位を食われた人間の死体が転がっていた。
普段から死体に慣れている四人は、一応、その位置を地図に記録して、後で回収できるようにした。
「うーん」
地図に記入しながら、八坂が唸った。
「この街の変化に、これだけの死体。確実に、UMAが関わっていますよね?」
「そうだろうな」
鉄平が路地の方を覗き込みながら頷いた。
「だけど・・・、どこにもいねぇ・・・」
「もう逃げたんじゃないっすか?」
「その説も十分に有り得るが・・・、ちょっと腑に落ちねぇよな」
鉄平は、装備していた鉄棍で、壁をコツコツと叩いた。
柔らかいような。硬いような。
変な感触だ。
「このビルの壁・・・、一体何が起きてやがる?」
「街全体が、この肉壁で覆われていますよね」
山田もビルの壁や、道路をノックするように叩きながら頷く。
「恐らく、UMAの人外的な力が働いているんでしょうね」
「能力持ちか・・・」
熟考する鉄平。
能力には射程距離がある。
もしこの現象が、能力によるものなら、これは驚くべき事実だ。
ここまで射程距離が広い能力を、鉄平は見たことがなかったのだ。
「さて、どうしたもんか・・・」
数キロに渡る街の中を一通り見て回ったが、どこにも、この惨劇を指揮した親玉は見受けられない。
「ってか、この死体・・・」
根本的なことに気がついて、鉄平は路傍の死体を鉄棍で指した。
「どうやって殺されたんだ?」
その③に続く
その③に続く




