【第108話】 合同作戦開始 その①
薄絹を脱いで
この背中に残る傷跡を
舐める貴方の
舌の温もりに溺れていく
1
カレンが悪魔の堕慧児達に連れ去られてから、五時間ほどの時が経過した。
丁度、架陰達が二代目鉄火斎の工房に向かっている頃、とある場所で動きがあった。
帰宅ラッシュを過ぎて、車通りがほとんど無くなってしまったビル街。
歩道を闊歩するは、居酒屋から出てきた酔っ払いサラリーマンだけで、皆、各々に路肩で嘔吐いていた。
それをビルの屋上から見下ろす人影が二人。
「本当にやるのか?」
一人は、能力を解除して人間の姿に戻った笹倉。
そしてもう一人は、高校のブレザーを身にまとった少女だった。
「やりますよ」
黒い天蓋の下で、風に黒髪をたなびかせながら、少女ははっきりとそう言った。
「もう始めますので、笹倉さんは準備をお願いします」
「ハイハイ」
面倒くさそうに返事をする笹倉。
それを聞いて、少女もまた、面倒くさそうに舌打ちをした。
「嫌なんですか?」
「なわけ」
「私も、笹倉さんと一緒に任務に当たるのは嫌ですよ」
「結構酷いこと言うよね?」
「酷いことを言われるのが嫌なら、言われない努力をお願いします」
「ハイハイ」
「ちっ!」
少女は、はっきりと分かる舌打ちをした。
それから、スカートを少したくし上げ、白く細い太ももを顕にした。
「笹倉さん。見ないでください」
「いや、お前が見せて来たんだろうが」
「あなたは女子の気持ちを理解する能力に欠けているようですね」
少女は、そう言いながら、その白い太ももに、指をズブリと喰い込ませた。
爪が脚の肉を抉り、ぐちゃぐちゃと体内に侵入していく。
血が吹き出し、ぼたぼたと地面に落ちた。
「この能力を使えば、私は傷つくんです。どうせなら、目立たない傷がいいでしょう?」
「そうだな・・・」
少女は太ももの肉をゾリッ!!と抉り出した。
真っ赤に濡れた手の中に、ピンポン玉程の肉塊が握られる。
血の滴るそれをグチャりと握りつぶし、すぐし下の地面に塗りこんだ。
「能力【陽炎】。発動・・・」
少女を中心として、彼女の血肉がアスファルトを侵食するように広がっていく。
ズブリズブリ、ズブリズブリと、生々しい音を立てながら、それはありとあらゆる方向を赤黒く染め上げて行った。
「すげぇよな」
その様子を見ながら、笹倉は感嘆の声を洩らした。
「お前の能力、射程範囲広すぎだろ」
「あまり便利なものではありませんよ? 笹倉さんみたいに空は飛べませんし・・・、唐草さんみたいにパワーが上がるわけでもありません・・・」
ピキピキと骨が軋む音がした。
見れば、少女の眼球が真っ赤に充血して、ブレザーを突き破り、肩甲骨辺りから白い硬質の翼が生えていた。
「私の能力は、ただ、【敵をおびき寄せる】だけなので・・・」
「十分すげぇだろ」
彼女の血肉は、数十秒でビルを飲み込んだ。
墨汁を垂らしたように灰色だったビルは彼女の肉に覆われ、血肉はさらに範囲を拡大させていく。
一人のサラリーマンが酔っ払って歩いていると、目の前に広がってきた血肉を発見した。
「なんじゃこりゃ、誰かが怪我でもしたのかぁ?」
そんなことを言いながら、血溜まりをヒョイッと飛び越える。
その瞬間、血溜まりから肉の塊が首を擡げ、サラリーマンの右足首を掴んだ。
そして、バクんッ!!と、彼の足首から下の骨と血肉を取り込む。
「えっ!!」
突然、右足が消えた。
当然、サラリーマンは困惑して、発狂した。
ばたりとアスファルトの上に倒れ込み、それでも直ぐに、自分の足を心配した。
「ふぎゃあっ!! オレの足が!! オレの足がァー!」
それを見て、笹倉は大袈裟に顔を歪ませた。
「お前、結構悪趣味だよな?」
「どこかですか?」
「いや、直ぐに殺せばいいのに・・・」
「殺しませんよ・・・」
少女はニヤリと笑い、太ももから流れて来る血を拭った。
「私の能力は、敵のエネルギーを吸い取ることもできるんです。これから始まる戦いに備えて、栄養補給と行こうじゃありませんか・・・ 」
すると、太ももの傷から流れていた血がピタッと止まった。
直ぐに肉が細胞分裂を開始して、その傷を癒していく。
「さて。準備は整いました。後は好きにしてください 」
「へいへい」
笹倉は、屋上の肩網から若干首を出して地面の様子を見た。
バタリバタリとサラリーマン達が倒れている。
皆、足首から下が無かったり、手首から下が無かったり。
必ずどこかを怪我していた。
「ほんと、悪趣味だぜ」
翌日、とある情報が桜班に駆け込んできた。
○○地区にて、謎の肉片が出現。
肉片は○○地区のほとんどを飲み込み、辺りを地獄のような惨状と化した。
「桜班」、「椿班」、「薔薇班」で、この状況を調査せよ。
その②に続く
その②に続く




