城之内カレン奪還作戦 その②
雪原の追憶の中で
サクサクの遠のく貴方の
赤らんだ指先を
掴むことの出来ない
盲目の吹雪よ
2
「いい加減正気に戻れバカ!!」
その言葉を聞いて、架陰の頭の中は冷水を浴びたように明瞭になった。
いつも気だるげな響也がこうやって取り乱し、叫ぶのは滅多に無い。
事の重大さを、改めて痛感した。
「あ、はい・・・」
頷く。
「すみません」
架陰は腫れた頬を擦りながら、上半身を起こした。
響也もそれ以上殴ってくることはなく、「全く・・・」と言いながら、架陰から離れた。
「とにかく、現状報告だ。何が起こったか言え」
「はい」
架陰は立ち上がって、改めて説明した。
「悪魔の堕慧児が襲撃してきました。確認できるだけで三体。【唐草】と、【笹倉】と、【鬼丸】でした・・・」
「どいつも、前回の奪還作戦で交戦した奴らか・・・」
「はい。彼らは最初、僕を誘拐するつもりで襲ってきたんです。ですが・・・、途中から『作戦変更』って言って、カレンさんを連れ去ったんです」
「お前は、止められなかったのか?」
「はい。このザマですよ」
架陰は落ちていた【名刀・叢雲】の柄を拾い上げて、二人に見せた。
根元からポッキリと折られている。
「僕は【鬼丸】と戦いました」
「鬼丸か・・・」
苦虫を噛み潰したような顔をする響也。
無理もない。彼女は前回、鬼丸と交戦して、右腕を切り落とされるという痛手を負っていたのだ。
「まあ、お前が勝てないのは無理がないな。五体満足で帰って来れて結構だ」
「ありがとうございます・・・」
「しかし、不思議だ・・・」
響也は腕組みをして、うつむき加減に考えた。
「悪魔の堕慧児の目的は、【架陰の誘拐】じゃないのか? どうしてカレンを攫ったんだ?」
「わ、分かりません・・・」
「とにかく、カレンのトランシーバーの発信機を追うぞ」
響也がそう言うやいなや、クロナがサッと着物からトランシーバーを取り出し、液晶画面を覗いた。
GPSを使って、カレンの居場所を逆探知する。
しかし、直ぐに首を横に振った。
「ダメです。反応がありません」
「ダメか・・・」
奴らも学んだのだろう。
前回、架陰の居場所をGPSでバレたように、今回はカレンのトランシーバーを破壊したらしい。
「くそ・・・」
響也は珍しく動揺した様子で、近くにあった電柱を蹴った。
「カレン・・・」
しかし、直ぐに切り替えると、架陰の方を向き直った。
「一度帰るぞ。このことは、アクアさんに報告だ。それに、仮に居場所がわかったとしても、私たち三人だけじゃ、あの集団に勝てるとも限らない。前と同様に【椿班】との協力も見越して動こう・・・」
「はい」
架陰はこくりと頷いた。
それに、叢雲が折れてしまった今、架陰の戦力は格段に落ちている。
前回、二代目鉄火斎から【赫夜・プロトタイプ】を譲り受けていたのがまだ救いだった。
「じゃ、帰るわよ」
クロナがそう言って、架陰の前に背中を見せてしゃがみ込んだ。
「その傷じゃ動けないでしょ。おんぶしてあげるから」
「ありがとうございます」
架陰はクロナの背中におぶさった。
三人は、一度桜班の本拠地に戻ることとなった。
※
「なるほどね・・・」
桜班本拠地。総司令官室。
響也の報告を受けたアクアは、神妙な面持ちで頷いた。
「悪魔の堕慧児が、また動き出したのね・・・」
「はい・・・」
クロナに連れられて治療に向かっている架陰の代わりに、響也が頷いた。
「カレンが、連れ去られました」
「居場所は?」
「トランシーバーを破壊されたので、分かりません」
「そう・・・」
下唇を噛み締めるアクア。
居場所が分からない以上、助けに行くことが出来ない。
「とりあえず、【椿班】には、前回と同じように共闘を申請するわ。あそこの総司令官なら許可は出ると思うけど・・・」
「ですが・・・」
響也はこう言いたかった。
この数ヶ月で、急激に強くなっている架陰はともかく、もとより強かったカレンが敵に捕まったのだ。
つまり、敵も強くなっている。ということ。
「椿班と、桜班だけで・・・、悪魔の堕慧児達を殲滅できると思いますか?」
「響也にしては珍しいわね」
妙に弱気な発言を、アクアは指摘した。
響也は、「そりゃそうでしょ」と、それを認める。
「カレンがさらわれたんですよ? 慌てもしますよ」
「そうね」
「特に・・・、カレンは私の生きる全てなんですから・・・」
「そうね」
ガチャッと、総司令官室の扉が開いて、身体中に包帯を巻いた架陰が戻ってきた。その後ろにはクロナがついている。
「架陰、怪我の具合は大丈夫なの?」
「はい。回復薬も食べたので、しばらくしたら全快します」
「問題は山積みね」
アクアは腕組みをして、ソファの背もたれに体重を掛けた。
「カレンも助けないといけない。架陰の刀は折られた・・・」
「あ、そのことなんですけど」
架陰は思い出したようにアクアに報告した。
「実は・・・、悪魔の堕慧児達に混ざって、【一代目鉄火斎】がいたんです」
その③に続く
その③に続く




