【第107話】 城之内カレン奪還作戦 その①
造花を進呈する
秋になったら捨ててちょうだいね?
1
「おい、クロナ。これはどういうことだ?」
遅れて、○○地区に到着した響也は、街の惨状を見て、隣のクロナに尋ねていた。
クロナ、目の前の光景に瞳孔を震わせて「わ、分かりません」と言うことしか出来なかった。
惨状。
街の人間は消え失せ、代わりに、大量のUMAがビルの壁に叩きつけられて死んでいた。
その死体から流れ出した血液が、道路を真っ赤に染め上げている。
腸の生臭い臭いが、二人の鼻を突いた。
「この街に・・・、何が起こっているんだ?」
「さっきのUMAも、なんだったんでしょう?」
街に入る時に通る唯一の県道を、数匹のUMAが占拠していたことを思い出した。
UMA自体は強くなく、簡単に討伐することが出来た。
気がかりなのは、そのUMAと、この街に起こっている異常。その関連性だ。
「とにかく、架陰とカレンと合流しよう」
「そうですね」
響也とクロナは、架陰達を探して血溜まりの中を歩き始めた。
雨は既に止んでいた。
丁度その時、前方から、架陰が歩いてくるのが見えた。
「あ、架陰です!」
「そうだな・・・」
架陰の姿を見た時、二人は一目で架陰の様子がおかしいことに気がついた。
激しい戦いを交わしたのか、身体中から血を流して、着物は返り血で真っ赤に染まっている。右腕がだらんと垂れて、その指先から血が滴っていた。
本人の瞳も虚ろで、意識があるのか無いのか測りかねない様子。
二人は架陰に駆け寄った。
「おい、架陰。どうした?」
「・・・・・・」
架陰は俯き加減で、足を引きずるようにして歩いている。
ズルズル、ズルズルと、二人の横を通り過ぎて歩いていく。
「おい!!」
響也が架陰の肩を掴む。
そこでようやく、架陰は我に返った。
「あ、響也さん・・・、それに、クロナさんも・・・」
「おい、どうした? その傷は? 回復薬は使わないのか?」
「え、あ、ああ・・・」
架陰は自分が回復薬を摂取していないのを思い出して、着物の懐から【桜餅】を取り出そうとした。
しかし、右肩の腱が切られているために、腕が上がらない。
仕方なく、左手で取り出そうとする。
その左手には、柄だけとなった【名刀・叢雲】が握られていた。
それを見た時、クロナの顔がサッと青ざめた。
「あんた!! その刀!!」
「あ、ああ・・・、これですか・・・」
架陰の手から、叢雲の柄がポロリと落ちる。
カシャンッ!!
と、乾いた音を立てた。
「折られました・・・」
「折られただと?」
「UMAにか!?」
「いや・・・、悪魔の・・・、堕慧児に・・・」
「悪魔の堕慧児だと!!」
彼らの襲撃を知るや否や、響也は架陰に詰め寄り、彼の胸ぐらを掴んだ。
「悪魔の堕慧児に遭遇したのか!!」
「は、はい・・・」
「戦ったのか!!」
「はい・・・」
架陰の目は、虚ろ。
こうやって上下に揺さぶられているというのに、何も感じていないような混濁した瞳だった。
そんな呆けた様子に、響也は若干のいらだちを覚えた。
「おい、架陰。はっきりとものを言え。とりあえず、現状報告をしろよ・・・」
「あ、ああ・・・、すみません」
架陰は思い出したように頷くと、事の顛末を話し始めた。
「刀を、折られました・・・」
「ちっ!!」
響也は架陰の頬を打った。
架陰はそのままよろめいて、雨水の溜まった道路に腰を打ち付けた。
響也は眉間にシワを寄せた。
「クロナ。こいつはダメだ。一度戻って、治療を受けさせるぞ。刀を折られたせいでボケてる」
「あ、はい・・・」
クロナは、立ち上がらずぐったりとしている架陰の前にしゃがみ込んだ。
彼の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「もー、しっかりしてよ。響也さん怒っちゃったじゃない」
「クロナ。早くしろ」
「分かりましたよ」
クロナは、架陰の腕を掴んで立ち上がらせた。
「ほら、一旦帰るわよ。治療も受けなきゃダメだし・・・」
架陰の気持ちは理解できた。
せっかく手に入れた新たな刀を一瞬で折られたのだ。絶望もするだろう。
腕を自分の肩に回して、架陰を支える。
「大丈夫? 痛くない? ってか、カレンさんと合流しなかった?」
「・・・、…、ました」
「え? なんて言ってるの?」
「連れ去られました・・・」
「え?」
「カレンさんが・・・、悪魔の堕慧児に、連れ去られました・・・」
架陰がそう言った瞬間、そっぽを向いていた響也が勢いよく振り返った。
クロナを押しのけ、架陰の首を掴むと、そのまま地面に組み伏せる。
「お前っ!! 今!! なんて言った!!!」
「カレンさんが・・・、連れ去られました・・・」
「何故それを早く言わない!!」
「すみません・・・」
響也は装備していた【Death Scythe】を放り投げて身軽になると、右拳を握りしめた。
そして、思い切り架陰の頬を殴る。
ゴツッ!!
と鈍い音が響いて、架陰の頬が赤く腫れた。
「いい加減正気に戻れバカ!!」
その②に続く
その②に続く




