悪魔の巣食う女 その③
地獄の底を見た者が
踵を返すのと同じで
鬼を見た私は
天使の翼をちぎる
3
「マジかよ」
唐草から伝えられた事実に、笹倉は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「こっちに、鬼丸さんと、鉄火斎さんが向かってんのかよ」
「どうしたの? 不満なの?」
「いや、なんか、オレたちの力信用されていないような気がしてな・・・」
「事実じゃないか。実際、さっきも君は市原架陰の誘拐に失敗してる」
「馬鹿野郎。失敗なんかしてねぇよ」
こればっかりは、認めるわけにはいかなかった。
「一時撤退だ」
「逃げたんだ」
「殺すぞ」
笹倉は、面白がってニヤニヤと笑っている唐草を睨む。できることなら、この減らず口を首ごと吹き飛ばしてやりたかった。
「とりあえず、街の周囲はUMAを使って占拠しているからな。この街には、UMAハンター以外は侵入出来ない」
「へぇ、君にしては用意周到じゃないか」
「ああ。だから、時間はたっぷりある」
笹倉は舌なめずりをした。
「幸い、ここには、市原架陰とカレンしかいない。オレとお前でかかれば、行けるさ」
「そうだといいんだけどね」
唐草がそう呟いた瞬間、どこからともなく「ドンッ!!!!」と、なにかが炸裂する音が聞こえた。
音に反応して、二人が振り返る。
ビルの影から、架陰とカレンが飛び出してきた。
「あっ!! いました!!」
架陰は、カレンをお姫様抱っこして、脚に魔影を纏わせている。
魔影脚の脚力で、ここまで跳んで来たのだ。
笹倉の顔がサッと青ざめた。
「あいつ!! もう追いついて来やがったのか!!」
唐草は思わず吹き出す。
「ねえ、どうするの? 奴さん、逃がしてくれないみたいだよ?」
「くそ!! 手伝え!! 唐草!!」
「ハイハイ」
慌てふためく笹倉とは対処的に、唐草はこの状況を楽しんでいた。
屋上のタイルの上に着いていた和傘をバサッと開く。
「じゃあ、僕はあの女の子を殺る。君は市原架陰を倒せ」
「おうよ!!」
市原架陰&城之内カレン。
VS
唐草&笹倉。
先手を取ったのは、架陰にお姫様抱っこされていたカレンだった。
そのままの体勢のまま、竜巻の槍を放つ。
「風神之槍!!」
竜巻の槍は、風に弱い笹倉の方へと飛んでいく。
瞬時に、唐草が笹倉の前に立った。
「行くよ【名傘・雨之朧月】」
広げた和傘で、竜巻の槍から笹倉を護る。
和傘の影から、笹倉が飛び出して、雷撃を纏った刀を一閃した。
「オラァ!! 【名刀・雷光丸】だぁ!!」
眩い雷撃が、亀裂のように交錯しながら架陰とカレンに迫る。
架陰は魔影を纏わせた脚を、雷撃にぶつけた。
「【魔影脚】!!!」
トンッ!!!
と、架陰の蹴りから放たれる衝撃波が、雷撃をかき消した。
「ちっ!!」
「もう、頼りないなぁ」
唐草が笹倉の横から飛び出す。
折りたたんだ傘を中段に構え、自慢の脚力で架陰との間を詰める。
流れるような動きで突いた。
「ぐっ!!」
傘の先端が、架陰の頬を掠める。
「ほら、隙が生まれた」
その隙を突いて、唐草の回し蹴りが架陰とカレンを吹き飛ばす。
二人は屋上のアスファルトの上を水切り石のように跳ねた。
これで、下ごしらえは完璧。
「ほら、二人は分断した、お互いの役割を果たそうね」
「わかってるよ」
二人は一斉に襲いかかった。
唐草はカレンへ。
笹倉は架陰へ。
「くっ!!」
カレンが頬に着いた泥を拭って顔を上げると、唐草がカツンカツンと、下駄を踏み鳴らして走ってくる。
「あらぁ。私の相手はあなたなのぉ?」
「そうらしいね!!」
強く踏み込む唐草。
ドンッ!!!!
と地面が撓み、蜘蛛巣状の亀裂が走った。
勢いを左脚に乗せて、カレンの頭蓋骨を砕こうと、強烈な蹴りが放たれる。
カレンはマッドマックスのように上体を仰け反らせて、その蹴りを間一髪で躱した。
「風神之槍」
返す手首で、竜巻の槍を放つ。
「っ!!」
唐草の視界の足元から竜巻が飛んできて、彼の顎を穿った。
「がはっ!!」
脳が揺れる。
強烈なアッパーを食らったボクシング選手のように、空中に投げ出される唐草。
カレンは目の玉をひん剥いてニヤリと笑った。
「ほら、死んでよ」
空中の唐草に、容赦なく竜巻の槍を放った。
唐草もまた、ニヤリと笑う。
和傘を開いて、竜巻から身を護った。
「へぇ、面白いね」
空中で体勢を整えて、カランッ!!と着地する。
対峙するカレンと唐草。
雨は一層強くなる。
「・・・・・・」
「なるほどね」
唐草は独り合点して頷いた。
和傘を閉じて、杖のように地面に着く。
「君・・・、体内に何か飼ってる?」
「あらぁ。なんのことかしらぁ?」
カレンは貼り付けたような笑みを浮かべ、追撃の竜巻を放った。
「風神之槍!!」
竜巻が、雨水を巻き込みながら、唐草に迫る。
唐草は「やっぱりね」と納得した。
「やっぱり、君、体内に悪魔を飼っているでしょ」
第105話に続く
第105話に続く




