悪魔の巣食う女 その②
茨を食む
頬に焼け付く
鮮血の流動
2
「おいおい・・・」
雨が降りしきる。
笹倉の頬から、冷や汗が流れ落ちた。
「まさか、本当に殺っちまうとはな・・・」
カレンの翼々風魔扇から放たれた突風は、二人を取り囲むUMAの群れを吹き飛ばし、壁に叩きつけて殺した。
躊躇が無かった。
壁にめり込んで息絶えるUMA達が、【元人間】であろうと、まるで羽虫を払うかのように殺した。
カレンのその行動の早さに、架陰でさえも息を呑んだ。
「・・・カレンさん?」
「架陰くん。躊躇はダメよォ」
カレンはニコニコとしながら、架陰の頭を撫でた。
「UMAが襲いかかって来たのなら、それがたとえ人間であろうと、殺しなさい」
「でも・・・」
「見てみなさいよぉ」
カレンは、ビルの壁にめり込んで死んでいるUMA達を指さした。
壁を雨水が伝い、彼らの血液がドロドロと道路の方に流れ込んでくる。
「あれは、UMAよ?」
「そ、そうですけど・・・」
「そして、彼も・・・」
カレンの冷たい瞳が、笹倉を見た。
「UMAよ」
その瞬間、カレンは不意打ちをかますかのごとく、翼々風魔扇を振った。
「【風神之槍】」
扇から竜巻の槍が放たれ、空気中の雨水を巻き込みながら笹倉の方へと迫った。
笹倉はすかさず、刀を振った。
「【名刀・雷光丸】!!」
刃から、黄金の雷撃が放たれ、カレンの竜巻と衝突する。
竜巻と雷撃。
二つの攻撃は、ぶつかり合い、相殺した。
「こいつ!!」
笹倉は一瞬で確信した。
(強くなってやがる!!)
竜巻の威力が増している。前回なら、押し勝っていたのは笹倉の方だ。
「はい、もう一発」
カレンは笑みを絶やさぬまま、追撃の竜巻を放った。
笹倉の刀、【雷光丸】は雷撃を放つことができるものの、連発をすることは出来ない。
「ちっ!!」
竜巻の槍が、笹倉の腹に直撃した。
突風に吹き飛ばされ、笹倉はビルの壁に叩きつけられた。
腰椎から首筋の骨がピシピシと軋む。
「がはっ!!」
「架陰くん、殺っちゃって」
「え」
「早くしてよぉ」
「あ、はい!!」
架陰は、刀に魔影を収束させると、虚空に向かって振り下ろした。
「【悪魔大翼】ッッ!!!」
名刀・叢雲の刃から、漆黒の三日月状の斬撃が放たれる。
そのまま、ビルの壁に叩きつけられて悶えている笹倉に迫った。
「くっそ!!」
笹倉は力を振り絞って、背中から生えたコウモリの羽を羽ばたかせると、その場から飛躍した。
間一髪で、架陰の斬撃を躱す。
悪魔大翼は、無人となったビルだけを粉砕した。
カレンは残念そうに唇を尖らせた。
「あらぁ、外しちゃった・・・」
「すみません」
「いいのよぉ。また、動きを止めればいい話だし」
そんな二人の様子を、笹倉は肩で息をしながら見下ろしていた。
腹の底から、ふつふつと怒りのようなものが湧いて出てきて、叫ぶ。
「てめぇ!! 何しやがる!!」
「何しやがるって・・・」
カレンはキョトンと首を傾げた。
「あなたを殺すのよ」
言った瞬間から、翼々風魔扇を振って、上空の笹倉に向かって竜巻の槍を飛ばした。
「こいつ!! 正気かよ!!」
笹倉は雷光丸の雷撃でそれを、吹き飛ばした。
このまま、架陰とカレンを相手に戦うのは分が悪いと判断した笹倉は、羽を羽ばたかせて距離を取る。
「くそ!! 一旦撤退だ!!」
計画が完全に狂った。
まさか、一度にけしかけた百体のUMAを、一瞬で一掃するなんて想像できるわけがない。
(どうする・・・!!)
歯を食い縛った時、眼下に広がるビルの群衆から、笹倉を呼ぶ声がした。
「笹倉ー!!」
はっとして、声がした方を見ると、ビルの屋上に誰かが立っていた。
女のようにサラサラとして長い茶髪。飄々とした顔。体型は痩せ型で、その上に麻の衣を纏っている。
そして、和傘を差していた。
「あの野郎・・・!!」
笹倉は舌打ちをして、その者を睨んだ。
彼は、悪魔の堕慧児の一人、【唐草】。
「おい! 唐草!!」
笹倉は罵声を上げながら、唐草の方へ寄って行った。
「お前!! どこにいたんだよ!」
「どこって・・・」
唐草は、悪びれることなく、肩を竦めた。
「そりゃ、この辺りを散歩していたんだよ。逃げそびれた人間を殺しながらね」
「てめぇ!! 俺はな!! あのカレンって女に殺されかけたんだぞ!!」
「へえ?」
面白がってニヤリと笑う唐草。
「なんで? 君が負けるはずがないのに?」
「知らねぇよ」
笹倉は唾を吐く。
「あいつ、容赦が無い。まるで悪魔だ!!」
UMAを、なんの慈悲も無く殺した。
「とにかく、架陰を誘拐するなら、まずあのカレンって女を引き剥がさないと無理だぜ」
「仕方ないなぁ・・・」
唐草は面倒くさそうに言った。
和傘を畳む。
「じゃあ、僕が市原架陰を襲撃するから、君はカレンちゃんの相手をしててよ」
「ダメだ。逆だ」
「なんで?」
「決まってんだろ。俺の能力【ガーゴイル】と、あの女の【翼々風魔扇】の能力じや、相性が悪い!! 前にもあれでやられたんだぞ!!」
「君が弱いのが悪いんだよ」
唐草は唇を尖らせた。
「でも、追撃は少し待った方がいい。鬼丸さんと・・・、一代目鉄火斎さんが、今こちらに向かってるからさ・・・」
その③に続く
その③に続く




