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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
346/530

名刀・叢雲 その③

あるべき姿に囚われず


上流の冷水の如く


泡沫の飛沫に身を焦がして

3


刃に魔影を纏わせた架陰。


刃に炎を纏わせた鉄火斎。


その二人が、嬉々とした表情で相対して、ほぼ同時に刀を振り下ろした。


刃と刃。


鉄火斎が作った最高の一振。


それが衝突する直前に、二人はピタリと動きを止めた。


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


激しい剣戟が嘘であったかのように、辺りは静寂に包まれた。


さわさわと風が吹き抜け、二人の着物の裾を揺らす。


これから二人はどう出るのか。


アクアとクロナが唾を飲み込んだ瞬間、二人は緊張の糸を緩めた。


架陰は魔影を解除して、刀を鞘に収める。


鉄火斎もニヤッと笑ってから、刀を元に戻した。


クロナが言った。


「あれ、決着つけないの?」


「刀の性能がわかったからもういいんです」


架陰はにこやかに答えた。


元から、この勝負は優劣を決めるためのものでは無い。


架陰が、この新しい刀をどうやって使いこなすのかを確認するためのものだったのだ。


「鉄火斎さん。ありがとうございます。すごく良い刀ですね」


「あたぼうよ」


鉄火斎は得意げに胸を張り、鼻をかいた。


「オレの打つ刀は天下一品だぜ。お前のための刀を打つことなんざ、お易い御用さ!!」


「はい。柄紐も手に馴染みますし、重さも丁度いい。斬れ味も赫夜より上ですね・・・!!」


「そうだろそうだろ!!」


鉄火斎は満面の笑みになり、架陰の背中をバシバシと叩いた。


「お前、よくわかってんじゃねぇか。さすがオレの担当のUMAハンター!」


「はい!」


架陰は力強く頷くと、腰帯に差した名刀・叢雲を、鞘ごと抜いた。


そして、刀を鉄火斎にかざし、ぺこりと頭を垂れる。


「鉄火斎さん。確かに頂きました。あなたの打った【名刀・叢雲】! これで、僕はこれからもUMAと戦い続けます!!」


「おう」


鉄火斎はそう言ったあと、話の腰を折った。


「と、言いたいところなんだが」


「え?」


「気をつけろよ。【名刀・叢雲】は、お前から魔影を吸収する刀だ。無闇矢鱈に、火力を出して戦っていたら、直ぐに体力が切れちまう」


「あ、そうですね」


「叢雲は、抜いた瞬間から、強制的にお前の能力を発動させる。強敵と戦う時は便利だが、雑魚と戦う時にはいささか燃費が悪すぎる」


それから、鉄火斎は一度工房に戻った。


そして、【名刀・赫夜・プロトタイプ】を持って帰ってくる。


「とりあえず、こいつを渡しておく」


「これも?」


「ああ。雑魚と戦う時は、その刀を使え。そっちの方が低燃費で戦えるからな」


つまり、魔影を使わずとも倒せるUMAには、【名刀・赫夜・プロトタイプ】を。魔影を使わないと倒せない強敵には、この【名刀・叢雲】を使うということだ。


「なるほど、使い分けるんですね・・・」


「賢く戦えよ。またオレの刀を折りやがったら許さねぇからな」


鉄火斎に脅されるように言われて、架陰は、苦笑した。


「はい。気をつけます」











アクアが呼んだ。


「架陰!! 新しい刀を手に入れたんなら、早く帰るわよ!!」


「あ、はい!!」


「ん? もう帰るのか? 今日くらい泊まってけよ」


「いや、クロナさんが不機嫌なので」


見れば、クロナは退屈したように顔をしかめていた。


不機嫌クロナに、鉄火斎は茶化すように話しかけた。


「おう!! そこの黒髪!!」


「あ?」


「お前も、機会があれば刀を打ってやるよ!」


「結構です!!」


クロナはキッパリと断った。


それから、ニコッと笑い、腰の刀に手をかける。


「私には、この【黒鴉】があるから」


「そうか。まあ、研ぐくらいはしてやるさ」


「ええ。機会があればね」


その日の内に、架陰一行は、アクアの運転するワゴンで山を出ることになった。


鉄火斎は、ワゴンを停めていた場所まで見送りに来てくれた。


「また来いよ」


「はい」


アクアがワゴンのエンジンを掛ける。


車に乗り込んだ架陰は、窓を開けて、鉄火斎の方に身を乗り出した。


丁度そのタイミングで、とあることを思い出し、鉄火斎に尋ねていた。


「あの、鉄火斎さん」


「あ?」


「一代目鉄火斎さんは、どこにいるんですか?」


「一代目だぁ?」


鉄火斎は、苦虫を噛み潰したような顔をした。


ぷいっと横を向く。


「さあな。十年前にいなくなっちまったよ。多分どこかで死んだんじゃねぇのか?」


「死んだ・・・?」


架陰の脳裏に、【架陰奪還作戦】の時の光景が過ぎった。


架陰と夜行の死闘で、悪魔の堕慧児のアジトが崩壊する直前、雨のように降り注ぐ瓦礫の中、その男はニヤニヤと笑いながら、架陰たちの前に立っていたのだ。


長身で、髪の毛は女のように伸びてボサボサ。ヨレヨレの着物を身にまとい、それでいても身を竦めたくなるような冷たい口調の男。


彼は、架陰にこう言った。










「一代目鉄火斎だよ」










と。


そして、こうも言った。










「次にそんななまくらを打ったら、僕が叩き折る」










と。


「・・・・・・」


「おい、どうした?」


「いえ・・・」


架陰は首を横に振った。


アクアが、「出るわよ」と言って、アクセルを踏む。


ワゴンはゆっくりと動き出した。


「また今度!!」


「おうよ!!」


架陰は鉄火斎に手を振った。


脳裏にはずっと、【一代目鉄火斎】の立ち姿が浮かんでいる。


まさかな。


まさかな。


そう言い聞かせながら、二代目鉄火斎の姿が小さくなっていくのを、じっと見ていた。





















【二代目鉄火斎編】完結。
















次回より【カレン奪還編】開幕!!!


第103話に続く

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