新たな刀を その②
この腸を煮るのは
虚無の炎
2
「悪魔大翼!!」
モスマンの脳天に、架陰の刀が振り下ろされる。
モスマンはすぐ様、音の結界を展開させて斬撃を防ぎにかかった。
魔影による衝撃波と、音による衝撃波。
二つの衝撃波の衝突。
「はあっ!!」
腹のそこから雄叫びを上げて、架陰は刀をねじ込んだ。
魔影刀の漆黒の刃が、モスマンの結界を貫通する。
そして、モスマンの脳天を穿った。
グチャりと頭部が潰れて、青みがかった血液が飛び散る。
モスマンは苦痛のあまり、「キイイイイッ!!」と悲鳴をあげた。
耳を突く高音。
「くっ!!」
脳を直接刺激されるような感覚に、架陰の腕が固まった。
それでも、歯を食いしばって耐える。
「おおらあっ!!」
思い切り振り抜いた。
ザンッ!!!
頭から股にかけて、モスマンの身体が両断される。
「やった!」
モスマンはもう二度と叫ぶことも無く、羽ばたくことも無く、ただひとつの肉片となって地面へと落下していった。
ドチャッ!!
と、地面に肉片が落ちて、血肉が弾ける。
「何とか・・・、倒したか・・・」
架陰はほっと一安心して、能力を解除した。
架陰を抱いて飛行していたクロナが、彼を抱きしめたまま労う。
「架陰。よくやったわ!!」
「まあ、このくらいわけないですよ」
「あんた、ちょっと生意気になったよね?」
「そうですっけ?」
クロナの安全飛行で、そっと地面に降り立つ二人。
両断されたモスマンの死骸の前に立った。
「さて、問題は・・・、ここからですね」
架陰は名刀・赫夜を構えて言った。
今回の任務の目的は、【魔影石】を入手するということ。
魔影石とは、生物の突然変異を促す【DVLウイルス】が、体内で鉱石化したもののことである。
「鉄火斎さんが言うことには・・・、魔影石を体内に持っているローペンを食らうことで、生物濃縮が起きて・・・、モスマンの体内にも魔影石が出現しているってことですけど・・・」
とりあえず、腹の部分を割いてみる。
ピンク色の胃袋に、刃を差し込めば、どろりと先程食ったローペンの肉片が流れ落ちる。
「うーん・・・」
血肉が邪魔をして、魔影石が見つからない。
架陰は眉間に皺を寄せながら、モスマンの腹を掻き回した。
コツン・・・、と、刃の先に固いものが当たる。
「あ・・・!」
架陰は刀を引いて、中のものを抉り出した。
ゴロン・・・と、紫がかった黒色の石が転がりでる。
「あった!!」
「良かったわね」
架陰は血にまみれたそれを素手で拾い上げた。
ずっしりと重い。手のひらに収まりきらない。
「任務は完了ね・・・」
クロナはほっと息を吐くと、腰の鞘に刀を収めた。
架陰も、赫夜を鞘に収める。
「帰りましょうか・・・」
※
「よくやった!」
架陰から魔影石を受け取った鉄火斎は、顔を綻ばせてそう言った。
「うん。ちょうどいい大きさだ!! これなら、お前の新しい刀を打つことができるぜ!!」
「それは良かったです・・・」
それから、鉄火斎は架陰と、その隣のクロナをしげしげと眺めて、顔を顰めた。
「それにしても、お前ら・・・、くせぇな」
「あ?」
すかさず、クロナが黒鴉の鞘で鉄火斎の頭を殴った。
「それ、女子に向かって言う言葉?」
「いや、事実じゃねぇか」
事実だった。
モスマンを至近距離で両断した時に、二人はその体液を浴びている。それが生臭いのだ。
「お前ら、その臭い体で、オレの家に入ってくんなよ」
「あ?」
クロナが刀を抜こうとした所を、アクアがなだめた。
「ほら、裏の五右衛門風呂で、湯を沸かしているから、入っておいで。ボディソープとかも用意して置いたから」
「え!! やった!!」
クロナは目を輝かせ、一瞬で怒りを忘れた。
アクアに手を引かれて、外に出ていく。
「あ、僕も・・・」
架陰も二人に着いていく。
「あんたは裏の滝にでも打たれてなさいよ」
「なんで僕の扱いそんなに雑なんですか?」
結局、クロナが風呂を出るまで、玄関の前で待つことになった。
「うう、臭いよ・・・」
鼻が曲がるような臭いに顔を顰めていると、玄関の引き戸が開いて、鉄火斎が顔を出した。
「おい、架陰」
「なんですか?」
「お前、今度の刀のデザインは何がいい?」
「何って・・・」
「オレ的には、あまり装飾は着けたくない。邪魔だからな」
「ああ、だから、赫夜に装飾を施していなかったんですか?」
「その通り」
そう言いながらも、架陰に三本の【柄紐】を渡す鉄火斎。
架陰はその三本を受け取って、眺めた。
「これは・・・」
「好きな色を選びな。それを、柄に巻いてやる」
色は三色。
黒色。
紫色。
赤色。
「うーん・・・」
以前使っていた赫夜には、柄紐は巻かれていなかったために、悩む。
「まあ、ここはあえて・・・、紫色ですかね?」
「なんでだ?」
「なんとなくですよ」
架陰は柄紐を鉄火斎に返す。
すると鉄火斎の方も、いきなり新しく打つ刀の名前を口にした。
「【叢雲】・・・」
「へっ?」
「決めた。お前の新しい刀の名前は、【名刀・叢雲】だ」
その③に続く
その③に続く




