【第101話】 新たな刀を その①
地平線の向こうの
白い光に目を細め
凍てつく空気に
肩をすくめるならば
進みゆく我らの旅路を
どうか薄暗く照らさんとして
1
やられた。
右肩に走る激痛と、飛び散る血液の熱を感じながら、クロナは歯ぎしりをした。
モスマンが羽を羽ばたかせて接近してくる。
すぐ様、クロナも翼を羽ばたかせて急降下。
「架陰!!」
「はい!!」
架陰はクロナが降下してくるタイミングに合わせて、魔影刀で地面を叩いた。
粉塵を発生させて、モスマンを寄せ付けない。
「よくやった!!」
クロナは、架陰の俊敏なサポートを褒めると、能力を解いて地面に降り立った。
その瞬間、力が抜けて、ガクッと膝をつく。
右肩にぽっかりと空いた穴から、ぼたぼたと血液が流れ落ちた。
「クロナさん、その傷は・・・!!」
「やられた・・・」
クロナは、着物の袖から回復薬を取り出すと、一口かじった。
舞い散る砂煙の中、説明する。
「モスマン・・・、あいつ、衝撃波を極細にして放ってきた・・・」
「極細・・・?」
「おかげで、貫通力が増して・・・、この様よ・・・」
「動けますか?」
空中を飛行するモスマンに打点があるのは、同じく翼を持つクロナだけだった。
「何とかね・・・」
クロナは額に脂汗をかきながら頷いた。
回復薬を摂取したおかげで、出血は収まった。今に、傷口も再生していくことだろう。
「能力も問題なく発動できる。だけど、右肩がやられたから、左手で刀を持つことしかできないわ・・・、明鳥黒破斬の威力は確実に落ちるわね・・・」
「どうしましょう・・・」
その瞬間、再び上空からキリキリという音が聞こえた。
架陰は蹲るクロナを肩に担ぐと、その場から飛び退く。
ドンッ!!!
二人が立っていた地面が粉砕した。
(厄介なのは、あの衝撃波か・・・。それと、モスマンの周りを取り囲む【音の結界】・・・)
砂煙を舞わせて置けば、衝撃波の軌道は分かる。
躱すことも容易。
だが、問題は、モスマンを守っている結界だ。
(どうする・・・!!)
架陰は下唇を噛み締めた。
衝撃波の隙をついて、モスマンに接近できるのはクロナのみ。
しかし、今のクロナでは、モスマンの音の結界を敗れるほどの火力を出すことができない。
「架陰・・・!!」
クロナが苦痛に顔を歪めながら言った。
「あんた、体重何キロよ・・・?」
「え、体重?」
なぜそれを今聞くのか。
「ええと、五十キロくらいだと・・・」
「私と体重が近いの、なんかムカつく・・・」
「は?」
「とにかく、軽いのね」
「はい。平均よりかは、軽いかと・・・」
「よし、じゃあ、こうするわよ!!」
その瞬間、クロナは自立すると、架陰の背後に回り込んだ。
そして、架陰の胴回りをぎゅっと抱きしめる。
「えっ!? 何しているんですか!!」
「いいから!! 暴れないでよ!!」
そう念を押すと、クロナは再び能力を発動させた。
クロナの背中から、漆黒の翼が生える。
それを羽ばたかせて、クロナは一気に上昇した。
「うっ、わあああ!!」
いきなり空に連れ去られるものだから、架陰は思わずじたばたした。
クロナはそれを抑えるために、さらに架陰を抱きしめた。
「いい? 私が架陰を支えて飛ぶから、あんたはモスマンを仕留めなさい!!」
「わ、分かりましたよ!!」
顔を上げれば、モスマンが近づいてくる。
「すみません、もう少し力を緩めてください!!刀が構えられません!!」
「落ちないでよね!!」
クロナはすっと力を緩めた。
架陰は刀を下段に構えて、能力魔影を発動する。
滑稽な状態だ。
架陰の胴回りにクロナが手を回し、彼を支える。よって、架陰が使えるのは上半身のみ。
クロナは、架陰の背中あたりに顔と胸を押し付けることとなり、気恥しさを隠すのに精一杯だった。
翼を羽ばたかせて、上手く体勢を整える。
「モスマンが来ました!! 右に旋回お願いします!!」
「了解!!」
前方を見ることができないクロナは、架陰の指示の元に動く。
「もう少し右に!!」
「はいよ!!」
一撃で決める必要があった。
モスマンの攻撃の合間を抜い、モスマンの音の結界を破壊できる程の威力をたたき出す。
「【能力】・・・【魔影】!!!」
空中で魔影を発動。
漆黒の霧のような物質が、架陰の刀の刃にまとわりついた。
漆黒の大剣。
「よし!! これでいける!!」
モスマンが衝撃波を放つ。
クロナはすぐ様上空に飛んで回避した。
モスマンよりも上を取り、真上から一気に急降下。
「行くぞ!!」
結界が発動するギリギリの所まで接近した架陰は、渾身の一撃をモスマンに叩き込んだ。
「【悪魔大翼】!!!!」
魔影を纏わせた刃が、モスマンの頭に振り下ろされる。
手の中に残る、音の結界の反発。
それを振り切り、架陰は刀をねじ込んだ。
「はあっ!!」
ついに、モスマンの頭蓋に刀が叩き込まれた。
ドンッ!!!
衝撃波が、モスマンの額を穿ち抜いた。
その②に続く
その②に続く




