無音領域 その②
螺旋階段の先の
天蓋に向かう
降りしきる流星に願い
週末のコーンスープ
2
場面は再び、架陰とクロナのサイドに戻る。
「さて、準備はいいかしら?」
クロナが聞いてきたので、架陰は力強く頷いた。
「はい、もちろんです!!」
「よし。じゃあ、行くわよ!!」
「了解!!」
二人同時に、岩陰から飛び出した。
次の瞬間、上空から衝撃波が飛んできて、二人の傍の地面を粉砕した。
「来た!!」
上を見る。
モスマンが静かに羽を羽ばたかせながら浮かんでいた。
「架陰・・・!! 作戦通り行くわよ!!」
「わかってます!!」
クロナに言われて、架陰が動き出す。
力強く「能力発動!!」と叫んで、魔影を発動させた。
身体から黒い霧のような物質が染み出して、架陰の意思に従い、生き物のように蠢く。
それを、架陰は刀に纏わせた。
「はあっ!!」
地面に向かって、魔影を纏わせた刀を振り下ろす架陰。
刀から、正確には魔影から放たれた衝撃波は、地面を粉砕して派手な土煙を上げた。
「クロナさん!! 作戦開始ですよ!!」
四方八方を取り囲む土煙。
当然のように何も見えなくなった。
(これでいい。これがいい・・・!!)
架陰は刀を構えたまま、モスマンの襲撃に備えた。
どうする? モスマンよ。
衝撃波を使って遠距離から攻撃してくるか・・・。それとも、自慢の羽を羽ばたかせて強制的に射程範囲に入ってくるか。
次の瞬間、二人の耳に金属を擦り合わせるような音が聞こえた。
「架陰!!」
「はい!」
答えは前者だ。
次の瞬間、上空に浮かんでいたモスマンが衝撃波を放つ。
辺りに漂う砂煙を消し飛ばしながら、二人に迫る強力な攻撃だ。
二人は、音だけを頼りに一斉に飛び散った。
二人がたっていた地面がさらに粉砕して、土煙が立つ。
「さて、これからよ・・・!!」
クロナはモスマンの遠距離攻撃を回避しながら、次のステップに入った。
なぜ、土煙が立ちこめる中、モスマンは衝撃波を放つことを選んだのか。二人に接近して、確実に命を狙えば良かったのだ。
それを、しなかった。ということは、モスマンは、「土煙に対してデメリットな部分を抱いている」ということだった。
(恐らく、モスマンはあの複眼が弱点!!)
モスマンの眼球。左右にひとつずつ。しかし、それは一つ一つ小さな眼球で構成された複眼。
土煙が多く舞い散る場所では、モスマンの動きが鈍くなることが判明した。
「架陰!!」
「なんでしょう?」
「ステップ2と行くわ!!」
「はい!!」
まずは、モスマンの弱点を暴いた。
次に、暴くべきは、本命の【モスマン攻略】方法だった。
「魔影!! 弐式!!」
もう一度、魔影刀を地面に叩きつける架陰。
地面に蜘蛛の巣のような亀裂が入り、細かな砂が巻き上げられた。
やはり、砂煙を舞わせてしまえば、モスマンは接近してこない。
衝撃波だけを使用するようになる。
衝撃波は、事前に予備動作があるので、回避可能だった。
モスマンが、砂煙の中でチョロチョロと動き回る架陰とクロナに向かって衝撃波を放った。
目には見えない衝撃波。
しかし、砂煙の中ではそれも無効だ。
衝撃波が通った空間の砂煙が、四方にはじき出される。
砂煙によって、衝撃波の【音の形】が目に見えるようになったのだ。
「見えた!!」
架陰は、目を見開いて衝撃波を観察した。
(なるほどね・・・)
クロナは衝撃波を回避してから、合点したように頷いた。
その瞬間、鼻からたらりと血が流れた。
(モスマン・・・、なかなか器用なことをするわね・・・)
砂煙のおかげで、全てが見えるようになった。
モスマンは二種類の【衝撃波】を放っているのだ。
一つのは、低音の、言わば周波数が少ない衝撃波。これは、架陰とクロナを吹き飛ばす【攻撃用】として用いられている。
対して、その低音の衝撃波に隠すようにして、周波数が多い衝撃波を放っている。
これは、二人にすら聞き取ることができないモスキート音だった。
攻撃用衝撃波に纏わせるようにして、超高音衝撃波を放っている。
これにより、初撃の衝撃波を回避することに夢中になった二人は、気がつくことが出来ないまま、高音のモスキート衝撃波に被弾する。
そして、体内の血管を切られて出血するのだ。
クロナは叫んだ。
「だいたいわかったわね!!」
架陰もこくっと頷く。
「はい!! 大丈夫です!!」
仕組みが分かればこっちのものだ。
クロナは能力を発動させて、背中から翼を生やした。
「能力・・・、【黒翼】!!」
羽ばたいて、空中のモスマンに向かって斬りこんでいく。
「架陰!! あんたは砂煙を発生させ続けて!! 衝撃波が見えないことには回避が出来ないから!!」
「はい!!」
架陰は地面に魔影刀を振り下ろし、砂煙を舞い散らせる。
「ここで仕留めるわよ!!」
その③に続く
その③に続く




